本当の「知る」とは、ただ知識があるということではない。
知っていることを「知っている」と自覚し、知らないことを「知らない」と正直に認められること――それが真の知である。
知らないのに知っているふりをするのは、知への冒涜であり、成長の妨げとなる。
自分を偽らず、正確に見つめる謙虚さが、学びの扉を開く。
学ぶ者にとって最も大切なのは、知らないことを素直に「知らない」と言える勇気である。
“知らない”と言える人が賢い──知は、誠実さとともに磨かれる。
目次
原文
「子曰、由、誨女知之乎。知之為知之、不知為不知、是知也。」
書き下し文
「子(し)曰(いわ)く、由(ゆう)よ、女(なんじ)に之(これ)を知るを誨(おし)えんか。之を知るをば之を知ると為(な)し、知らざるを知らずと為す。是(こ)れ知(ち)るなり。」
現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「子曰く、由よ、女に之を知るを誨えんか」
→ 孔子は言った。「由(=弟子の子路)よ、お前に“知るということの本質”を教えよう。」 - 「之を知るをば之を知ると為し」
→ 知っていることを「知っている」と認めること。 - 「知らざるを知らずと為す」
→ 知らないことを「知らない」と認めること。 - 「是れ知るなり」
→ これこそが、本当の「知る」ということなのだ。
用語解説
- 由(ゆう):孔子の弟子「子路(しろ)」の名。行動力に富み、率直な性格。
- 誨う(おしう):教える、示す。
- 知之(これをしる):知識や理解、真の認識。
- 為す(なす):~とみなす、判断する。
- 是知也(これちない):これこそ「知」である。孔子による「知識観」の核心。
全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「由よ、“知る”ということの本当の意味を教えよう。
知っていることを『知っている』と認め、知らないことを『知らない』と認める。
これこそが、真に“知っている”ということなのだ。」
解釈と現代的意義
この章句は、「真の知性とは、正直に“わからない”と言える勇気と謙虚さにある」という、孔子の知識観を端的に表しています。
- 「知ったかぶり」や「曖昧な態度」は、真の学びを妨げる。
- 本当に賢い人とは、「知らないことを知らないと自覚できる人」。
- これは、単なる知識量の問題ではなく、**自己認識と誠実さを含んだ“徳としての知”**です。
ビジネスにおける解釈と適用
- 「“わからない”と言えることが、信頼につながる」
- 報告・相談・商談において、誠実に「不明です」「調べます」と言える姿勢が信頼の基盤。
- 無理に答えようとして間違ったことを言うより、率直さの方がプロフェッショナル。
- 「学びは“わからない”を起点に始まる」
- 若手もリーダーも、“知らない自分”を認めることで成長が加速する。
- 「知っているつもり」で止まる人は、いつか伸び悩む。
- 「謙虚な知性が、学び合う文化をつくる」
- チームや組織が、「知らないことを素直に言える安全な環境(心理的安全性)」を持っていれば、学び合いと協力が活性化する。
- リーダーが率先して「自分もまだ学びの途中です」と言えることが、組織の成熟を促す。
まとめ
この章句は、知識社会における自己認識・誠実な態度・学び直しの重要性を強く示す教えです。
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