人は名誉や地位を得ることを「喜び」と感じる。
だが、そうした名や位とは無縁であることこそ、より深く、静かで、本物の喜びをもたらしてくれることを知らない。
人は飢えや寒さを「不幸」として恐れる。
だが、実際には、何不自由のない生活を送っている者の中にこそ、
心の中に言いようのない重たい悩みを抱えている人がいることを、見ようとしない。
本当の幸せとは、世間に評価されることでも、財を得ることでもない。
むしろ、評価や期待から自由であり、心が穏やかであること、
そして誠実に、平凡を生き抜くところにこそ、最も深い喜びがある。
原文とふりがな付き引用
人(ひと)は名位(めいい)の楽しみ為(た)るを知(し)るも、名(な)無(な)く位(くらい)無(な)きの楽しみの最(もっと)も真(しん)たるを知らず。
人(ひと)は饑寒(きかん)の憂(うれ)い為(た)るを知(し)るも、饑(う)えず寒(さむ)えざるの憂(うれ)いの更(さら)に甚(はなは)だしきものたるを知らず。
注釈(簡潔に)
- 名位(めいい):名声や地位。世間的成功。
- 無名無位の楽しみ:世に名を知られず、地位にも就かず、それでも心静かに生きる喜び。
- 饑寒(きかん):飢えと寒さ。物質的な困窮の象徴。
- 不饑不寒の憂い:物質的に満たされていながら抱える、心の苦しみや虚無感。
1. 原文
人知名位為樂、不知無名無位之樂為最眞。人知飢寒為憂、不知不飢不寒之憂為更甚。
2. 書き下し文
人は名位(めいい)を楽しみと為すを知れども、名無く位無きの楽しみの最も真(しん)なるを知らず。
人は飢寒(きかん)を憂いと為すを知れども、飢えず寒えざるの憂いの更に甚(はなは)だしきを知らず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 人知名位為樂、不知無名無位之樂為最眞。
→ 人は名声や地位を得ることを喜びと考えるが、実は無名無位であることのほうが、もっと真実で純粋な楽しみであることを知らない。 - 人知飢寒為憂、不知不飢不寒之憂為更甚。
→ 人は飢えや寒さを憂いと考えるが、実は飢えてもおらず寒くもない者が抱える精神的な悩みのほうが、もっと深く苦しいということを知らない。
4. 用語解説
- 名位(めいい):名声と地位、社会的な成功や表面的な評価の象徴。
- 無名無位(むめいむい):世間に知られず、地位も権力も持たない状態。
- 飢寒(きかん):食べる物や着る物がない困窮状態。
- 不飢不寒(ふきふかん):物質的には満たされているが、心の空虚や悩みを抱えている状態。
- 最眞(さいしん):最も真実で純粋な。虚飾のない本質的な価値。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
人は名誉や地位を得ることを幸せだと思うが、実は無名無位で自由に生きていることのほうが、より本質的で深い喜びである。
また、人は飢えや寒さに悩むことを不幸と捉えるが、飢えることも寒さに苦しむこともない人が、心に抱える悩みの方が、かえって深刻であることが多い。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「真の幸福と苦しみは、他人からは見えない」**という人生の深い洞察を示しています。
- 表面的な成功(名声・地位)にとらわれるほど、人は内面的な自由を失っていく。
- 外から見て恵まれた暮らしにあっても、心の空虚や葛藤はむしろ増していくこともある。
つまり、「世俗的な指標では測れない真実の価値と苦悩がある」ことを知るべきだと説いています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ 地位や称賛よりも「自分らしさ」の喜びを
昇進や表彰が喜びなのは一時的。むしろ、無名でも自分の信念を貫き、自分らしく働けることこそが、持続的な喜びを生む。
▪ 表面的な「満たされ感」の裏にある空虚
物質的に不自由のない状態でも、「自分の役割が見いだせない」「本当にやりたいことがない」という悩みは、精神的には極めて深刻。
「何も不足はないはずなのに、満たされない」──これは現代ビジネスパーソンの共通課題ともいえます。
▪ 名声と地位に縛られすぎると、柔軟性と本質を失う
ポジションや実績にこだわるあまり、リスクを取れず、変化を受け入れられなくなる。
一方で、無名でも自由に動ける人は、しなやかに時代を乗り越えていく。
8. ビジネス用の心得タイトル
「無名の喜び、満たされた苦悩──“見えない真実”に気づける人が強い」
この章句は、目に見える幸福や不幸の奥にある“本質”を見つめ直せという強いメッセージを持っています。
成功しているように見えても苦しんでいる人がいる。無名でいても本当に幸せな人がいる。
内面の充実こそが、真の幸福であるという深い哲理が、ここに示されています。
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