孟子は、人が人であるために不可欠な徳として**「仁」**を挙げた。
仁とは、人間の根本的な愛や思いやりの心であり、それが備わって初めて“人らしい”存在といえる。
さらに孟子は、仁と義が合わさって初めて「道」、すなわち人としての正しい生き方が形づくられると説いている(※原文では省略された「義」を補って解釈する学説が有力)。
- 仁(じん)…他者を思いやる心、親愛の情。親を愛し、人をいたわる感情の根本。
- 義(ぎ)…その仁を外に表す行為の正しさ、道理に適ったふるまい。
この二つが合わさることで、内に愛を持ち、外に正しさをもって行動する人間像が完成する。
それこそが孟子の言う「道」であり、儒教的な「修身・斉家・治国・平天下」へとつながる出発点である。
つまり、仁と義を備えてこそ、人は自らの道を歩むに足る存在となる。
「人間であること」の意味を問う孟子の根源的な思想が、ここに凝縮されている。
引用(ふりがな付き)
「孟子(もうし)曰(いわ)く、仁(じん)なる者(もの)は人(ひと)なり。合(がっ)して之(これ)を言(い)えば、道(みち)なり」
注釈
- 仁なる者は人なり…仁を備えることこそ、人が人としての本質を持つということ。
- 道(みち)なり…人として歩むべき正しい生き方。儒教においては、道徳的修養の指針。
- ※本文省略の補足解釈:「義とは宜(ぎ)なり=ふさわしいこと」。仁と義を並列に捉えることで孟子の思想体系がより明確になる。
1. 原文
孟子曰、仁也者、人也。合而言之、道也。
2. 書き下し文
孟子(もうし)曰(いわ)く、仁(じん)なる者は、人(ひと)なり。合(がっ)して之(これ)を言(い)えば、道(みち)なり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 仁也者、人也。
→ 「仁」とはすなわち「人(ひと)」である(人間らしさそのもの)。 - 合而言之、道也。
→ それらをすべて一つにまとめて言えば、それが「道(みち)」である。
4. 用語解説
- 仁(じん):儒教の中心概念で、思いやり、愛、共感など人間関係の根本的徳目。人間性の本質とされる。
- 人(じん/ひと):ここでは「人間らしさ」あるいは「人としてのあり方」を意味する。仁と通じる語。
- 合して之を言えば:様々な徳目や人の在り方を統合して表現すること。
- 道(みち):人が歩むべき正しい道、倫理、理法。儒教では宇宙・社会・人倫を貫く法則の意。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孟子はこう言った:
「“仁”とは、人間らしさそのものである。それらの要素をまとめて言うと、それは“道”というものになる。」
6. 解釈と現代的意義
この短い章句は、孟子が語る**“仁=人間性の本質”**という思想を直截に表したものです。
孟子にとって「仁」は単なる道徳ではなく、「人が人であるために備えるべき根源的な性質」です。
人を人たらしめるものは仁であり、それを総合すれば「道」となる──つまり、仁は個々の善行であり、「道」はそれらの集大成としての人生哲学・世界観です。
7. ビジネスにおける解釈と適用
「人間性こそ、行動の基準となる“道”である」
- ビジネスにおいても、最終的な判断基準は「損得」より「人として正しいか」に立脚するべき。
- 誠実さ・共感・信義──こうした“仁”の積み重ねが、企業文化やブランド価値(=道)を形成する。
「理念やビジョンは、“人間らしいあり方”の集約」
- 経営理念や企業のビジョンは、実はそれぞれの社員の**“仁ある行動”の集合**として生まれる。
- それが「道」として組織を導き、信頼を築く指針になる。
「短期の成果より、長期の“道”を重んじるリーダーシップ」
- 部下に対して、ただ成果を求めるのではなく、人間として成長を促す関わりが重要。
- その姿勢こそが、「道を示すリーダー」の在り方となる。
8. ビジネス用心得タイトル
「“仁”が集まり“道”となる──人間らしさが企業の羅針盤」
この章句は、「人としてどうあるべきか」があらゆる行動・判断・組織文化の根底を形作るという儒教的かつ普遍的な真理を簡潔に表しています。
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