どんなに小さなことでも、決して手を抜かず誠実に取り組む。
人目のないところでも、自分をごまかさない。
そして、失意のときにも投げやりにならず、節度と努力を失わないこと――
この三つを守れる人こそが、本当の意味での「立派な人物」であり、真の英雄と呼ぶにふさわしい。
誰も見ていない場面や、誰にも評価されないときの振る舞いこそが、
その人の本質を最も正確に表すのである。
原文(ふりがな付き)
小処(しょうしょ)に滲漏(しんろう)せず、暗中(あんちゅう)に欺隠(ぎいん)せず、末路(まつろ)に怠荒(たいこう)せず。纔(わず)かに是(こ)れ個(いっこ)の真正(しんせい)の英雄(えいゆう)なり。
注釈
- 小処(しょうしょ):日常の些細なこと、細部。大事ではないように見える局面。
- 滲漏(しんろう):手を抜いたり、油断したりすること。小さな怠慢。
- 暗中(あんちゅう):人の目が届かない場面。私的な時間、内面の行動。
- 欺隠(ぎいん):欺き、ごまかすこと。特に自分自身や目の届かないところでの不正。
- 末路(まつろ):人生の終わり際、あるいは失意・不遇のとき。
- 怠荒(たいこう):投げやりになり、自堕落に流されること。
※『老子』も小事の積み重ねと慎みを重視しており、「大事を為すは小事を以てす」(第六十三)、「易(やす)きを為すは其の未だ難(かた)からざるに因る」(第六十四)などの思想に通じる内容です。
パーマリンク(英語スラッグ)
true-hero-in-details
(細部にこそ真の英雄)steadfast-in-small-and-dark
(小さく見える場面で誠実に)dignity-in-adversity
(逆境に品格を失わず)
この条文は、「誠実さ」とは人目のある場でだけ発揮されるものではなく、誰も見ていない場所や、自分が苦しいときにこそ試されるという厳しくも尊い教えです。
まさに、人格の本質を見抜く指針といえるでしょう。
1. 原文
小處不滲漏、暗中不欺隱、末路不怠荒。
纔是個眞正英雄。
2. 書き下し文
小処に滲漏せず、暗中に欺隠せず、末路に怠荒せず。
纔かに是れ個の真正の英雄なり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 小処に滲漏せず
→ ごく小さなことにも気を抜かず、注意深く誠実に対応すること。 - 暗中に欺隠せず
→ 人目のないところでもごまかさず、正直であること。 - 末路に怠荒せず
→ 終わりが近づいた時にも気を緩めず、怠けたり乱れたりしないこと。 - 纔かに是れ個の真正の英雄なり。
→ これらを全て実行できて、はじめて「本物の英雄」と呼べる人物である。
4. 用語解説
- 小處(しょうしょ):小さな出来事、細部、些末な場面。
- 滲漏(しんろう):しみ出す・漏れる。ここでは「ミスや不正、気の緩みが表れること」。
- 暗中(あんちゅう):人目のない場面、見られていない状況。
- 欺隱(ぎいん):欺く・隠すこと。嘘をついたりごまかしたりすること。
- 末路(まつろ):人生や仕事などの終盤、最後の局面。
- 怠荒(たいこう):怠けたり、放逸になること。だらしなくなること。
- 纔(わず)かに:かろうじて、ようやく。強調表現で、「〜してこそ」といった意味合い。
- 真正英雄(しんせいのえいゆう):真の勇者・真に立派な人物。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
小さな場面でも油断せず、見られていないところでもごまかさず、終わりの時にも気を緩めずきちんとやり抜く。
それができてこそ、初めて本物の英雄(=真に立派な人物)といえるのだ。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、真の人格とは「細部・隠れた場面・最後」に現れるという非常に深い教えを説いています。
- 小事をおろそかにしない注意力
- 誰も見ていない時でも正しくある誠実さ
- 終わりまでやり抜く覚悟と粘り
これらすべてを備えている人こそ、表面的な成功者ではなく「本物」と呼べるのです。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
● 「細部に神宿る:小さなミスを許さない姿勢」
ちょっとしたチェック漏れ、軽い約束の忘却──これらを軽視する組織は、大きな事故につながる。
小さなところでも“誠実さと正確さ”を貫くことが、信頼を築く鍵。
● 「見られていない場面での行動が“本性”を示す」
休憩中の態度、社外での振る舞い、報告されない経費処理──
“誰も見ていないとき”にこそ、自分の誠実さを試されている。
● 「最後まで粘る人が“本物”」
プロジェクトの終盤や退職前の態度、締め切り直前の品質──
“終わり方”にこそ、その人の真価が現れる。
途中の華やかさより、最後まで丁寧にやり抜く人が、真に尊敬される。
8. ビジネス用の心得タイトル
「細部に誠、暗中に徳、終わりに品──それが“真のプロフェッショナル”」
この章句は、現代でも通用する「見えないところこそ人格が現れる」という倫理観を見事に表しています。
評価される前に、自分がどこまで誠実でいられるか──その心構えが、真の信頼を築きます。
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