曾子は、孔子から聞いた言葉を引きながら、人の感情の深さについて語った。
人が自分の内にある真実の感情――「真情」や「誠意」を完全に表すことは、めったにない。
それができるとすれば、最も深い情の対象である「親」を喪ったときなのではないか、と。
普段の人間関係や社会の中では、感情には抑制や体裁が伴い、
心の奥底から湧き出るものをそのまま出すことは難しい。
だが、親の死という圧倒的な体験の前では、人は自然と、偽りのない感情を露わにする。
これは、「人間の感情の深さ」と「日常における感情の抑制」の間にあるギャップを、
親子という最も根源的なつながりを通して考える教えである。
原文と読み下し
曾子(そうし)曰(い)く、吾(われ)は諸(これ)を夫子(ふうし)に聞(き)く。人(ひと)未(いま)だ自(みずか)ら致(いた)す者(もの)有(あ)らざるなり。必(かなら)ずや親(しん)の喪(も)か。
意味と注釈
- 夫子(ふうし):
孔子を敬って呼ぶ言葉。 - 自ら致す:
自分の真情を尽くす、心からの感情を出し切るという意味。 - 未だ自ら致す者有らざるなり:
そうした真情を普段の生活の中で完全に表す人は、ほとんどいないという指摘。 - 必ずや親の喪か:
唯一その可能性があるのが、「親を喪ったとき」であろうという推察。 - 哀悼の心と人間性の露呈:
喪における悲しみは、社会的建前を超えて人間の本質をあらわす機会と捉えられている(→第484条とも関係)。
パーマリンク(英語スラッグ)
true-feelings-in-grief
他の候補:
when-heart-speaks
only-in-parental-loss
rare-honesty-of-the-soul
この章句は、人の心の奥底にある誠の感情は、強い情の結びつきや深い悲しみの中でしか表れにくいことを示しており、
日常の中で「心を尽くすとはどういうことか」を静かに問いかけてくる深い教えです。
1. 原文
曾子曰、吾聞諸夫子、人未有自致者也、必也親喪乎。
2. 書き下し文
曾子(そうし)曰(いわ)く、吾(われ)、諸(これ)を夫子(ふうし)に聞(き)けり。人(ひと)未(いま)だ自(みずか)ら致(いた)す者有(あ)らざるなり。必(かなら)ずや親(おや)の喪(も)か。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 曾子曰く、吾、諸を夫子に聞けり。
→ 曾子は言った。「私はこのことを、孔子先生からお聞きした。」 - 人、未だ自ら致す者有らざるなり。
→ 「人は、心の底から自発的に深く感情を表すことは、普通はなかなかない。」 - 必ずや親の喪か。
→ 「それが自然に現れるのは、たぶん親を亡くしたときくらいだろう。」
4. 用語解説
- 曾子(そうし):孔子の高弟。誠実さと孝行心を重視した思想家で、『大学』の伝承者ともされる。
- 夫子(ふうし):孔子のこと。儒学の師。
- 致す(いたす):ここでは「心から尽くす」「自然に感情を表す」の意味。
- 親喪(しんそう):親の死に際して行う喪。最も深い哀しみを伴う礼。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
曾子はこう言った:
「私はこのことを孔子先生から伺った。
人が自らの感情を極限まで尽くして表すことは滅多にない。
それが自然に表れるのは、おそらく親の喪に臨んだときだけであろう。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「人の本当の感情が自然に現れる瞬間」を問い、それが「親の死に際しての喪」**であると説いています。
- 普段、人は感情を押し殺し、表面上の礼儀や理性で過ごしている。
- しかし親の死という深い喪失体験は、そうした理性を超えて**「本当の感情」があふれ出る瞬間**。
- 曾子が大切にする「孝」と「誠実」の精神が、ここに色濃く表れています。
この章句は、「真実の心の現れ」「人間らしさの極限」「自然な誠の発露」が、儒教においていかに尊いと考えられていたかを物語ります。
7. ビジネスにおける解釈と適用
✅「“自然な感情”こそ、信頼される人間性の証」
儀礼や言葉ではなく、真に心からの共感・感動・悲しみ・喜びを表す姿が、人間関係を深める。
✅「極限の体験が、人間性をあらわにする」
困難な局面や重大な危機において、人の本性が最も強く現れる。
そのときに誠実さ・感謝・共感を示せる人物が、信頼に値する。
✅「“誠実さ”は強制できない。自然に滲み出るものである」
行動規範やモラル教育だけでは、真の誠意は育たない。
それは日常の中で築かれ、深い人間的経験によって現れる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「本心は、極限の場にこそ現れる──誠の徳は“親の喪”に学べ」
– 人の感情が最も自然に現れる瞬間、それは深い悲しみの中にある。誠実さとは、形式ではなく、心の発露である。
この章句は、**「感情の真実」「誠の心」**という儒教の核心に触れるものであり、ビジネスにおいても信頼・共感・人間性の本質を問う重要な教訓となります。
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