目次
■引用原文(日本語訳)
第十章 暴力(ダンダヴァッガ)第145偈
水道をつくる人は水をみちびき、
矢をつくる人は矢を矯め、
大工は木材を矯め、
慎しみ深い人々は自己をととのえる。
(『ダンマパダ』第145偈)
■逐語訳
- 水道をつくる人は水を導き:水路職人が流れを思い通りに整えるように、
- 矢をつくる人は矢を矯め:矢匠が曲がった矢を真っ直ぐにするように、
- 大工は木材を矯め:職人が木を削り整えて形づくるように、
- 慎しみ深い人々は自己をととのえる:賢明な人は、自分自身の心・行い・思考を整えていく。
■用語解説
- 矯める:本来の目的に適うように、歪みを直し、形を整えること。調整・調律する意も含む。
- 慎しみ深い人(ダンティーノ):自己をよく観察し、過ちを認めて修正しようとする謙虚で理性的な人。
- 自己を整える:外見的な整備ではなく、心のクセや行動の歪みを修正する内面的修行。
■全体の現代語訳(まとめ)
水道職人が水を思い通りに導き、矢匠が矢を真っ直ぐにし、大工が木を整えて形づくるように、
賢く慎み深い人は、自分自身の心と行いを修正し、整えていく。
自己を調律することこそが、人としての完成への道である。
■解釈と現代的意義
この偈は、『ダンマパダ』第10章の締めくくりにふさわしく、「自己修正」こそが人間の成長の本質であるという普遍的な真理を語ります。
仏教は一貫して、「他人を変えること」よりも「自分自身を調整し、練り上げること」を修行の核としています。
この偈ではそれを職人の姿に重ねて語っており、仏教的実践とはまさに「自分という素材を丁寧に仕上げる職人の作業」なのだという比喩が強く印象づけられます。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
セルフマネジメントの極意 | 感情の乱れや思考の歪みに気づき、日々修正を加えていくことで、継続的な成長が可能となる。 |
内省型リーダーシップ | 他人をコントロールするより、自分の態度・発言・姿勢を整えることで、周囲に自然と良い影響を与える。 |
継続的改善(Kaizen)精神 | 結果を出すためには、常に「自分のやり方」を点検・調整する意識が重要。思い通りにいかないときこそ内側を見直す。 |
■心得まとめ
「自らを調えよ、それが真の職人の道である」
水を導く者、矢を伸ばす者、木を削る者――
彼らが道具や素材に対して真摯であるように、
私たちもまた、自分という素材を丁寧に見つめ、整え、磨き上げていくべきなのです。
外界を責めるのではなく、内面を整えることからすべてが始まる。
これが仏教的修行の最終的なメッセージであり、日々を生きる私たちへの深い指針です。
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