徳とは、選択の自由があるときにこそ試される
孟子は、人の徳(とく)とは、極端な場面よりも、「してもよいし、しなくてもよい」中間の状況での選択によって最も明らかになると説いた。
- 取っても、取らなくてもよいときは、取らない方がよい。
なぜなら、取ることが廉(れん)=清廉さを損なうからである。 - 与えても、与えなくてもよいときは、与えない方がよい。
なぜなら、与えることが恵(けい)=恩徳を損なう場合があるからである。 - 死んでも、死ななくてもよいときは、死なない方がよい。
なぜなら、死がかえって「勇(ゆう)」を傷つけることがあるからだ。
ここで孟子が説くのは、「行為の結果」よりも「動機と判断」が重要であるという道徳観であり、
中でも「勇」については、「死ねば勇者」という短絡的な評価を明確に否定している。
原文(ふりがな付き)
孟子(もうし)曰(いわ)く、
以(もっ)て取(と)るべく、以(もっ)て取る無(な)かるべし。取れば廉(れん)を傷(そこ)う。
以て与(あた)うべく、以て与うる無かるべし。与うれば恵(けい)を傷う。
以て死(し)すべく、以て死する無かるべし。死すれば勇(ゆう)を傷う。
注釈
- 廉(れん):清廉さ。潔く節度ある徳。
- 恵(けい):恩恵。人を思いやる徳。
- 勇(ゆう):正義のために命をかける徳。軽率な死はこれを損なう。
- 大義の勇 vs. 匹夫の勇:
- 大義の勇:正義に基づく冷静で理知的な勇気。時に「生きる勇気」でもある。
- 匹夫の勇:衝動的な死や感情的な自己満足。真の徳とは言えない。
心得の要点
- 真の徳は、「やってもよい」状況での選択にこそ現れる。
- 徳を損なう善意、勇気を損なう死もある。動機と結果を冷静に見極めよ。
- 勇気とは、「死ぬこと」ではなく「死を選ぶべきか否かを見極める力」でもある。
- 自分の感情や名誉心からの行動ではなく、義に基づく選択こそが大義の勇である。
パーマリンク案(スラッグ)
- true-courage-is-discernment(真の勇とは見極める力)
- not-all-deaths-are-honorable(すべての死が勇ではない)
- virtue-in-choices(徳は選択に宿る)
この章は、日本の武士道や現代の倫理観にも直結する普遍的なテーマを扱っています。
「死ぬべきか生きるべきか」「与えるべきか与えぬべきか」といった日常の判断において、孟子の徳に基づく中庸な思考は、まさに現代人に求められる「理性ある勇気」の指針となるものです。
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