子夏は、君子の持つ多面的な魅力と品格を、三つの「変化(へんげ)」として説いた。
君子は、見る距離や接し方によって、相手に異なる印象を与える。
- 遠くから望めば、儼然(げんぜん)として威厳がある。
- 近くに接すれば、温(おん)かで親しみがある。
- その言葉を聞けば、厲(れい)しく凛としている。
これは、「近づきがたくて冷たい」わけでも、「親しみやすいだけ」の人でもない。
威厳と温和さ、そして言葉の重みを兼ね備えた人物こそ、君子の理想像である。
つまり、品格・包容力・知性の三位一体ともいえるバランスを説いている。
原文と読み下し
子夏曰(い)わく、君子(くんし)に三変(さんぺん)有(あ)り。之(これ)を望(のぞ)めば儼然(げんぜん)たり。之(これ)に即(つ)けば温(おん)なり。其(そ)の言(げん)を聴(き)けば厲(れい)し。
意味と注釈
- 望めば儼然(げんぜん)たり:
遠くから見たときの佇まいが厳かで、威厳をたたえているさま。 - 即けば温なり:
近づいて接すると、穏やかで親しみやすい人柄が感じられる。近寄ることに恐れを抱かせない。 - 言を聴けば厲し:
話す言葉には芯があり、凛としていてぶれがない。内容にも姿勢にも厳正さがあらわれている。 - 三変(さんぺん):
状況や接し方に応じた「人柄の三つの表れ」。偽装や演技ではなく、自然な徳のにじみ出た変化。
1. 原文
子夏曰、君子有三變、望之儼然、即之也溫、聽其言也厲。
2. 書き下し文
子夏(しか)曰(いわ)く、君子(くんし)に三(みっ)つの変(へん)有(あ)り。之(これ)を望(のぞ)めば儼然(げんぜん)たり。之に即(つ)けば温(おん)なり。其(そ)の言(ことば)を聴(き)けば厲(れい)し。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 子夏曰く、君子に三つの変あり。
→ 子夏は言った。「君子(立派な人物)には三つの顔(変化する様子)がある。」 - 之を望めば儼然たり。
→ 遠くからその姿を見ると、厳粛で威厳に満ちている。 - 之に即けば温なり。
→ 近づいて話すと、親しみやすく温厚である。 - 其の言を聴けば厲し。
→ 話を聞けば、内容は厳しく筋が通っており、鋭さがある。
4. 用語解説
- 君子(くんし):人格・知性ともに優れた理想の人物像。徳のあるリーダーのこと。
- 三変(さんぺん):三つの変化・側面。状況に応じた態度の違い。
- 儼然(げんぜん):厳かで堂々としている様子。威厳ある外見。
- 即く(つく):近づく。接近して親しくなること。
- 温(おん)なり:柔和で親しみやすい性質。温厚。
- 厲(れい)し:言葉が厳格で、鋭く、しっかりとした内容であること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
子夏はこう言った:
「君子には三つの異なる側面がある。
遠くから見れば、堂々として威厳があり、
近づいて接すれば、親しみやすく温和であり、
その言葉を聞けば、筋が通っていて厳しく鋭い。
このように君子は、状況に応じて異なる印象を与える存在である。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、真のリーダー像や徳のある人物のバランスを描いたものです。
- “近寄りがたい威厳”と“温かさ”と“鋭い知性”の共存が、君子の魅力であり影響力。
- 一面的ではない人間性(多層的な人格)こそが、真に信頼される人物の条件。
- 外見・ふるまい・言葉の全てにおいて「整っている人物像」を理想とする儒家思想が表れています。
7. ビジネスにおける解釈と適用
✅「リーダーは“威厳・温厚・理知”を使い分けられる人物であれ」
– 外見や存在感では尊敬を得られても、近づいたときに温かみがなければ人は離れていく。
– また、言葉が軽かったり中身がなければ、尊敬は一時的なものに終わる。
✅「第一印象・関係性・発言力すべてを整える力」
– 新入社員から経営層まで、信頼される人材とは、場に応じて印象をコントロールできる者。
– 礼儀正しい態度・柔らかな人柄・理性的で厳格な発言のバランスが重要。
✅「“威厳と親しみ”は両立する」
– 近づきにくいだけの人は孤立し、親しみやすさだけの人は軽んじられる。
– 本当に影響力ある人は、“距離感”を自在に調整できる人である。
8. ビジネス用の心得タイトル
「威厳・温和・鋭さを兼ねよ──三変の人こそ、真に信頼される」
– 遠目には尊敬され、近づけば安心され、言葉には重みがある──それが徳のあるリーダーの条件。
この章句は、現代の経営者・管理職・教育者にとっても極めて示唆に富む言葉です。
「見られ方」「接し方」「話し方」という三つの面から、人間の“完成度”を問いかけています。
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