―『貞観政要』巻五より:太宗の地域経済と貢納政策に関する訓示
🧭 心得
貢物(みつぎもの)は名声の飾りではなく、地域の誠をあらわすもの。
貞観二年、太宗は朝集使に対して、**「任土に応じて貢を作す(=その土地の産物を貢納せよ)」**という古典に基づき、他地域からの品を取り寄せてまで虚飾に走る風潮を厳しく戒めた。
本来、貢納とは土地の特色を活かし、国家と地域の自然な調和を象徴する制度である。ところが、諸州の刺史や都督らが、自領の名声を上げたいがために他所の物を買い集め、形だけを飾ることが常態化しつつある。
太宗はこれを「労して煩わしきこと、極まりなし」とし、即刻改め、純粋な土地の産物による貢納に立ち戻るよう命じた。それは、虚飾を排し、実を尊ぶ統治精神のあらわれであった。
🏛 出典と原文
貞觀二年、太宗、朝集使に謂いて曰く:
「『任土作貢(じんどさくこう)』はすでに経典に記されている。つまり、それぞれの州はその土地に適した産物を貢納すべきである。
当該州の特産を、宮中の庭に並べることが、本来の姿である。
ところが最近聞けば――
都督や刺史たちは名声を得ようと欲し、自領の産物が劣ることを恥として、他所から品物を調達してくる。
その風習は、今や諸州に広がり、皆が競ってこれをまねるようになってしまった。
本末転倒であり、過度の労力と煩雑を招く。すみやかに改めよ。以後、断じてこれを許すべからず」。
🗣 現代語訳(要約)
太宗は、地方の官吏が他所から物品を買って飾る虚栄の貢納を戒め、「貢物はその土地の産物に限るべきだ」と命じた。本来の制度に立ち返り、実をもって国を治めよという教えである。
📘 注釈と解説
- 任土作貢(じんどさくこう):『書経』などに見られる、各地の風土・資源に応じて産物を納めるという古代中国の基本的な貢納原則。
- 都督・刺史(ととく・しし):それぞれ軍政長官・地方行政官。州の長として地方を統治する役職。
- 邀射声名(ようしゃせいめい):名声を求めようとすること。見栄を張って高評価を得ようとする行為。
- 充庭実(ていじつをみたす):宮中の庭に物を満たす。象徴的な表現で、皇帝に産物を献上することを指す。
- 労擾(ろうじょう):過度の労力と混乱、負担を意味する。
🔗 パーマリンク案(英語スラッグ)
tribute-should-match-the-land
(主スラッグ)- 補足案:
authentic-offerings-only
/no-tribute-for-vanity
/local-goods-for-local-honor
この章は、真の誠実さとは、見栄で飾らず、地に足のついた姿を貢ぐことだという統治の姿勢を如実に物語ります。
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