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■引用原文(日本語訳)
彼岸もなく、此岸もなく、彼岸・此岸なるものもなく、
怖れもなく、束縛もない人――彼を私はバラモンと呼ぶ。
(『ダンマパダ』第385偈|第二六章「バラモン」)
■逐語訳
- Yassa pārañca apārañca:彼岸(涅槃)も、此岸(世俗)も
- Pārāpāraṃ na vijjati:彼岸・此岸という区別も存在せず
- Vītaddaraṃ visaṃyuttaṃ:恐れを離れ、すべての執着を超えた者
- Tam ahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ:その者をこそ、私はバラモンと呼ぶ
■用語解説
- 彼岸(Pāra):煩悩と輪廻を超えた解脱の境地、すなわち涅槃。
- 此岸(Apāra):日常の現象世界、執着や迷妄の満ちた現実。
- 彼岸・此岸なるもの(Pārāpāraṃ):二元的な分別・価値判断そのもの。
- 恐れ(Vītaddaraṃ):死、損失、否定などに対する心の不安。
- 束縛(Visaṃyuttaṃ):煩悩や我執から解き放たれた状態。
■全体の現代語訳(まとめ)
真に目覚めた者は、「彼岸(涅槃)」や「此岸(現世)」といった対立の概念すら超越し、そこに境界も差異も見出さない。また、恐怖に心を奪われることなく、あらゆる執着・束縛から解き放たれている。そうした完全なる自由の境地にある者こそが、真のバラモン(精神的完成者)であると説かれている。
■解釈と現代的意義
この偈文は、真理に至った者が「あらゆる対立概念」や「不安」「執着」から自由になっていることを語ります。現代の私たちは、「成功 vs 失敗」「勝ち vs 負け」「過去 vs 未来」といった二元論に心を引き裂かれがちですが、本当に自由な心とは、それらすべてを観念として手放し、「ただ在る」ことを知る心です。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
二元論の超越 | 成功・失敗、損得・評価など、常に対立する概念に心を囚われず、プロセスを大切にする姿勢が安定した判断力を育む。 |
心理的安全性 | 恐れに基づく意思決定ではなく、恐れを超えた視座から、勇気ある発言・行動が可能となる。 |
ラベルを外す思考 | 「重要である/ない」「上司/部下」といった役割や序列を越えて、全員が本質的価値で動ける組織が生まれる。 |
内発的動機づけ | 評価や賞賛への依存を超え、自らの軸で行動できる人材は、変化の中でもぶれずに貢献する。 |
■心得まとめ
「あらゆる“分ける心”を超えた先に、真の自由がある」
彼岸も此岸もなく、恐れも執着もない――それは、あらゆる対立や価値判断を超えた「ただ在る者」の姿。
ビジネスにおいても、人や状況にラベルを貼らず、静かに自らの道を歩むことが、最も強く、最も柔らかい在り方なのです。
評価を追わず、恐れに支配されず、内なる自由を軸に動く。そこに、真のプロフェッショナリズムが宿るのです。
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