MENU

百害あって一利なしの全部原価計算

これまで詳しく見てきた通り、全部原価計算は経営において数多くの問題を引き起こします。固定費を単位当たりに割り振るというその基本原則が、現実の経営判断において誤解を生む要因となっているのです。

洞察力のある読者であれば、この手法がいかに実務において不適切であるかをすでに察知していることでしょう。

目次

全部原価計算の本質的な問題点

過去計算の限界

全部原価計算は、基本的に過去のデータに基づいています。

いくら精密な計算を行ったとしても、それはあくまで「過去」の結果を再評価するに過ぎず、未来の意思決定には何の役にも立ちません。

  • 過去を振り返ることに費やされた時間や費用は、実質的には無駄です。
  • 未来志向の意思決定に必要な情報を提供しない点で、全部原価計算は「百害あって一利なし」の象徴と言えます。

固定費の不合理な割り振り

全部原価計算の最大の欠点は、売上や生産数量に関係なく発生する固定費を、単位当たりに配分することです。これにより、以下のような問題が生じます。

  • 単位当たりの原価が変動するため、製品の収益性を正確に評価できない。
  • 売上数量が確定していない状態では、未来の計画に原価計算を適用することができない。

単位当たりの思考の危険性

「単位当たりのコスト」に囚われると、経営の視野が狭くなりがちです。事業全体の収益やコストを総合的に考えるべきところを、部分的な数字に振り回される可能性があります。

全部原価計算の役割は外部報告に限定される

現行の会計基準や法律に基づき、全部原価計算は外部報告のためには欠かせないものです。財務諸表の作成や税務申告などでは、その計算方法が必要とされます。しかし、ここで強調すべきは次の点です。

内部管理には不適切

全部原価計算は、事業経営や意思決定のためのツールとしては不向きです。それは、未来志向ではなく過去を記録するためのものだからです。

外部報告と内部管理の分離

経営の意思決定や運営に使用する会計データは、外部報告のためのデータと明確に区別する必要があります。

未来志向の経営に必要な会計データ

経営の意思決定に役立つ会計データは、以下の特性を備えていなければなりません。

変化に対応するデータ

「変わるもの」に焦点を当て、意思決定に直接影響を与えるデータを提供する必要があります。

例:変動費や追加的な収益に関するデータ。

選択肢を比較できるデータ

複数の選択肢を評価し、それぞれの利点と欠点を明確に示すデータが求められます。

例:新規プロジェクトの採算性を評価するための限界利益分析。

全体最適を目指すデータ

部分的なコストではなく、事業全体の収益性を考慮するデータでなければなりません。

例:固定費の総額を事業全体でどのように賄うかという視点。

前向きな経営判断を支える具体的アプローチ

以下のような方法を用いることで、経営判断をより実践的かつ有効なものにすることができます。

限界利益の活用

売価から変動費を差し引いた限界利益に着目し、固定費をカバーできるかどうかを判断材料とします。

固定費を無視した分析

既存の事業で賄われている固定費を無視し、新しい取り組みやプロジェクトが追加的な収益をもたらすかに注目します。

未来を見据えた収支管理

経営判断の基準を「単位当たり」から「会社全体の収益」にシフトします。

データと現場の連携

現場の声を反映し、計算上の理論と実務とのギャップを埋める努力が必要です。

結論:全部原価を超えて

全部原価計算は、経営にとって「百害あって一利なし」の手法です。未来を見据えた経営判断を下すには、過去のデータに基づく計算ではなく、「変わるもの」に注目した柔軟で実践的な分析が求められます。

事業運営の成功の鍵は、数字に振り回されるのではなく、その背景にある現実を見極め、未来志向のデータを活用することです。全体最適を目指した経営管理が、持続的な成長への道を切り開きます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次