― 思い込みや激情は、自他を壊す刃になる
孔子は、極端な感情や思い込みの危険性について語った。
たとえば、勇気のある者が「貧しさ」をあまりにも憎んでしまうと、
その思いが高じて暴走し、自らを滅ぼすような行動に出るかもしれない。
また、強い正義感を持つ者が、仁を欠いた人間を過剰に憎んだ場合、
その怒りが社会秩序すら揺るがすような**激しい対立や混乱(乱)**を引き起こすこともある。
つまり、たとえ動機が正しくとも、それが極端に傾けば“乱”になるということ。
徳を持ってこそ、正しさや勇気も意味を成す。
偏らず、過ぎず――それが君子の要件である。
原文と読み下し
子(し)曰(のたま)わく、勇(ゆう)を好(この)み、貧(ひん)を疾(にく)むは乱(らん)なり。人(ひと)にして不仁(ふじん)なる、之(これ)を疾むこと甚(はなは)だしきは、乱なり。
注釈
- 勇を好む:勇ましさや正義感を重んじる姿勢。これ自体は美徳。
- 貧を疾む(にくむ):貧困を嫌い、強く憎悪すること。過度に嫌うと不満が怒りや暴動に変わる。
- 人にして不仁なる:仁(他者への思いやりや徳)を欠いた人物。
- 疾むこと甚だし(はなはだし)きは乱なり:他者の非道を過剰に憎むと、秩序を壊しかねない。
- 乱(らん):単なる混乱ではなく、道徳的・社会的な秩序の崩壊を意味する。前半の乱は自己破壊型、後半は社会破壊型の乱と解釈される。
原文:
子曰、好勇疾貧、亂也。人而不仁、疾之已甚、亂也。
書き下し文:
子(し)曰(いわ)く、勇(ゆう)を好(この)みて貧(ひん)を疾(にく)むは、乱(らん)なり。
人にして仁(じん)あらず、之(これ)を疾むこと已(すで)に甚(はなは)だしければ、乱なり。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「勇を好みて貧を疾むは、乱なり」
→ 勇ましさを好み、貧しさを憎む者は、社会を乱す存在となる。 - 「人にして仁あらず、之を疾むこと已に甚だしければ、乱なり」
→ 仁徳を持たない人間に対して、過剰に憎しみを抱くことも、混乱を招く。
用語解説:
- 勇(ゆう):武勇や行動力、恐れない心。
- 貧(ひん):経済的な貧しさ・困窮。
- 疾む(にくむ):強く嫌う、憎むこと。
- 仁(じん):思いやり、道徳心、人間愛。
- 乱(らん):社会や人間関係の秩序が乱れること。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう言った:
「勇ましいことばかりを好み、貧しさを激しく憎む者は、世の中を乱す原因となる。
また、思いやりのない人に対して、過度に憎しみを抱くような人もまた、社会に混乱をもたらす存在だ。」
解釈と現代的意義:
この章句は、極端な感情や価値観が社会秩序を崩すことを戒めています。
- 勇気や闘志を過剰に重視し、貧しさを“恥”と捉えるような偏った価値観は、競争や排除の原理を生み出す。
- また、仁愛の心を欠く者に対して、必要以上の怒りや憎しみを抱くことも、道徳を壊し、対立や混乱を招く。
つまり、バランスを欠いた価値観や感情は、個人にも社会にも「乱」を生むという警句です。
ビジネスにおける解釈と適用:
1. 「過剰な成果主義・闘争主義は、組織を乱す」
- 勇を好む=挑戦・競争心 → ポジティブに見えるが、共感・支援を欠けば排除につながる。
- 成果だけを評価し、苦境にある人や非エリートを軽視する文化は、離職や対立を招く。
2. 「“できない人”を責めることも、組織の不和の原因」
- 不仁なる人=ルールを守らない・思いやりに欠ける人に対しても、過度な糾弾は逆効果。
- 正すべきだが、「粛清」ではなく「教育・改善」の姿勢が必要。
3. 「感情の“過剰反応”が職場を乱す」
- 不公正・不誠実に対する怒りも、度を超せば対人関係の混乱を招く。
- 正義感と冷静さのバランスが、組織秩序を守るカギ。
ビジネス用心得タイトル:
「偏りと過剰な怒りが組織を乱す──“正しさ”よりも“節度”を持て」
この章句は、正義・勇気・怒りといった一見美徳に見えるものも、過ぎれば害となるという道徳の中庸観を教えています。
人事評価・組織マネジメント・ハラスメント対策などにおいて非常に有用な視点です。
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