――愛とは甘やかすことではなく、育てること
孔子は、真の愛情と忠誠心について、簡潔に、しかし力強くこう述べた。
「その人を愛するなら、どうして苦労を与えずにいられようか。
その人を思いやるなら、どうして教え導かずにいられようか。」
この言葉の本質は、愛情の本質は“成長を願う心”であり、
そのために苦労を与え、時に厳しく教えることも惜しんではならないということにある。
「かわいい子には旅をさせよ」ということわざとまさに通じる内容であり、
本当に相手を思うなら、一時の甘さや快適さではなく、将来を見据えて“鍛える愛”が必要だという、教育的な哲学である。
孔子はまた、「忠(ちゅう)」=誠意や真心にも、ただ優しくするだけでなく、導き・教えるという能動的な働きが伴うべきだとも説いている。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)曰(いわ)く、
之(これ)を愛(あい)しては、能(よ)く労(ろう)する勿(なか)らんや。
忠(ちゅう)にして、能く誨(おし)うる勿らんや。」
注釈:
- 愛しては、能く労する勿らんや
→「愛しているなら、苦労させずに済まそうとなど、できるだろうか(いや、できない)」という反語。 - 忠にして、誨うる勿らんや
→「誠実に思うなら、教えずに済ますことなど、できるだろうか(いや、できない)」という反語。 - 労(ろう)する … 試練を与え、実力を育てること。
- 誨(おし)うる … 教え導くこと。言葉や態度による助言・指導。
1. 原文
子曰、愛之能勿勞乎。忠焉能勿誨乎。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、之(これ)を愛しては、能(よ)く労(ろう)するを勿(な)からんや。忠(ちゅう)にして、能く誨(おし)うるを勿からんや。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
「子曰く、之を愛しては、能く労する勿からんや」
→ 孔子は言った。「人を本当に愛しているならば、その人のために骨を折ることを避けることができようか。いや、できない。」
「忠にして、能く誨うる勿からんや」
→ 「誠実であるならば、その人のために教え導くことを避けられるだろうか。いや、避けられない。」
4. 用語解説
- 愛(あい)する:ここでは「情愛」ではなく、相手の成長や幸福を願う倫理的な「慈しみ」や「大切に思う心」。
- 労(ろう)する:世話をする、骨を折る、時間や労力を惜しまないこと。
- 忠(ちゅう):誠実な心、まごころ。他者に対して心から尽くす態度。
- 誨(おし)う/誨うる(おしうる):教え導くこと。善導すること。
- 勿(な)し/勿からんや:「〜しないでいられるか、いや、できない」という強い反語表現。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「相手を本当に愛しているのならば、その人のために骨を折らずに済ませることなどできようか。
また、相手に対して誠実であるのならば、その人を教え導かずに済ませることなどできるだろうか。
──いや、どちらもできはしない。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「本当の愛・誠実さとは、行動を伴う」**という倫理観を説いたものです。
- 愛しているならば、時間も労力も惜しまない
- 誠実であるならば、相手のために“伝える・導く”責任が生まれる
つまり、孔子は「心の中でどう思っているか」ではなく、
その思いがどのように行動として現れているかを重要視しています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
✅「本気でチームを思うなら、手を動かせ」
- 部下や同僚を大切に思うのであれば、気遣いや支援を“行動”で示すべき。
- 単なる優しさではなく、「忙しくても時間を作る・面倒でも一緒に取り組む」ことが本物の関係を築く。
✅「誠実な上司は、耳の痛いことも言う」
- 本当に部下の成長を願うのであれば、失敗や弱点を指摘し、ときに厳しく導く姿勢が必要。
- 「忠にして誨うるを勿からんや」は、沈黙は誠実ではないという警句。
✅「指導とは、“伝える責任”を引き受けること」
- 誤解を恐れて何も言わないのは、自分可愛さの現れであり、誠実さではない。
- 教えること・伝えることの責任を果たすのが、真のリーダーシップである。
8. ビジネス用の心得タイトル
「思いを“行動”で示せ──愛と忠は手間を惜しまぬ姿に宿る」
この章句は、**「人間関係の本質は、言葉や気持ちではなく“行動で証明される”」**という、
孔子の一貫した倫理観を端的に表現したものです。
愛しているなら労を惜しまず、誠実なら導く努力を怠らない──
この姿勢こそが、信頼される人材・上司・リーダーの基本だと孔子は教えてくれます。
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