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政を為すは人に在り、身を脩むるに道あり


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■引用原文(『中庸』第七章)

哀公問政。子曰、文武之政、布在方策。其人存、則其政挙;其人亡、則其政息。
人道敏政、地道敏樹。夫政也者、蒲盧也。
故為政在人。取人以身、脩身以道、脩道以仁。仁者人也、親親為大;義者宜也、尊賢為大。
親親之殺、尊賢之等、礼所生也。
故君子不可以不脩身。思脩身、不可以不事親;思事親、不可以不知人;思知人、不可以不知天。


■逐語訳

  • 文武之政…方策:文王・武王の政治は、文献として記録されている。
  • 其人存…其政息:そのような人物がいれば政治は行われ、いなければすたれる。
  • 人道敏政、地道敏樹:人は政治を、地は草木を育む。それぞれの本分である。
  • 政也者、蒲盧也:政治とは、他人の子をも慈しむ土蜂(托卵の例え)のようなもの。
  • 為政在人:政治の良し悪しは、すべて人(為政者)にかかっている。
  • 取人以身…脩道以仁:よき人材を用いるには、まず己の修養が必要。身を修めるには道に従い、道を修めるには仁に従う。
  • 仁者人也…尊賢為大:仁とは人間性であり、親愛を第一とする。義とは適切さであり、賢者を尊ぶことを第一とする。
  • 親親之殺、尊賢之等、礼所生也:親しさの濃淡、賢者の区別、そうした節度が礼の根拠となる。
  • 君子不可以不脩身…不可以不知天:君子たる者は、まず修身し、親に仕え、人を知り、そして天(天命・自然法則)を知るに至らねばならない。

■用語解説

  • 哀公(あいこう):孔子が仕えた魯の君主。政治改革に関心を持っていた。
  • 蒲盧(ほろ):土蜂の一種で、他の巣に卵を託す。その慈愛性・外部への配慮を、政治の徳に喩えた。
  • 親親の殺(さつ):親しむべき順序の差(親・兄・親族など)。
  • 尊賢の等(とう):賢者を敬うにも能力によって順序があること。
  • 礼所生也:こうした差異・秩序を正しく形にしたものが「礼」である。
  • 天を知る:道徳や運命を超えた自然・天命の摂理に対する理解。

■全体の現代語訳(まとめ)

魯の哀公が政治について尋ねたとき、孔子は次のように述べた――
「文王や武王の政治は文献に詳細に記録されている。だが、それを実行する人物がいなければ、政治はすたれてしまう。
人間の道は政治に励むことであり、それは大地が草木を育てるような本質的な働きだ。
そもそも政治とは、自分の子だけでなく他人の子までも育てる“蒲盧”のような慈愛の実践である。」

つまり、政治の善し悪しは制度にあるのではなく「人」にある
よい人材を得るには、まず為政者自身がそのような人間でなければならない。
身を修めるには道を知り、道を修めるには仁――つまり「人を愛する徳」が必要だ。

さらに仁とは、「親を親しむ(親親)」を第一義とし、
義とは「しかるべきをしかるべくする(宜)」であり、その中心は「賢者を敬う(尊賢)」ことにある。

親しさにも序列があり(親親の殺)、賢さにも区別がある(尊賢の等)
その適切な区別を形式にしたものが「礼」である。

だからこそ、君子はまず自己を修めねばならず、
自分を修めようと思えば、親に尽くさなければならず、
親に仕えようと思えば、人を知らなければならず、
人を知ろうと思えば、天(天道・天命)を知らなければならないのである。


■解釈と現代的意義

この章は、「政治は制度でなく、人の徳に基づくべし」という儒教の核心を語っています。

  • 政治改革は制度改革だけではなく、人材育成が根幹である
  • 仁・義・礼の三徳が、政治の根本原理として一体的に作用する
  • 修身・斉家・治国・平天下の流れは、感情(仁)と秩序(礼)と判断(義)によって成立する
  • 最終的には「天を知る=人生の摂理・限界・道義を悟る」ことに至る、内面的な完成が求められる

■ビジネスにおける解釈と適用

観点解釈・適用例
経営哲学政策・施策以上に、「どんな人物がそれを運用するか」が成否を決める。経営の根幹は「人」。
リーダーの条件部下を評価・登用する前に、自身の徳・態度・姿勢を正すべし(「取人以身」)。
人間関係近い者をまず大切にし、次第に広く公平に接する。「親親→尊賢→礼」の流れは人事にも応用可。
組織文化礼の形成は、社員間の親しさや能力差を「形式ある秩序」で整えること。組織の安定感を生む。
キャリア成長修身→事親→知人→知天という成長段階を、自身のリーダーシップ育成計画に置き換えることができる。

■心得まとめ

「政治とは、制度でなく人であり、人とはまず己を修める者である」

徳のある人が政治を行えば、記録された制度も生きて働き、
徳のない者がいれば、どんな名制度も無に帰する。
その人となるために、まずは親を思い、人を知り、天命を悟るまでに自らを高めていく
すべての変革と安定は、「為政在人」――人間にこそ根差すのである。

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