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進むにも退くにも、時を見極めて

── 焦らず、遅れず、最もふさわしい時を選ぶ

ある日、孔子が門人たちと山道を歩いていたときのこと。
山の橋にとまっていた一羽の雌きじが、ふと気配を感じて飛び立ち、しばらく舞ってから、安全だと判断して再び橋に降り立った。
それを見て、孔子は感嘆しながら言った。

「山梁の雌きじよ――
飛び立つ時も、戻る時も、まことに“時”を間違えぬ。なんと、見事に“時”を知るものよ」

それを聞いた門人の子路は、きじに食べ物を投げ与えた。
きじはすぐに飛び立つことなく、三度その匂いを嗅いで、ようやく静かに飛び去っていった。

孔子は、この小さな自然のふるまいに、人生の大きな智慧を見ていた。
「今が動くべき時か、留まるべき時か」――
それを見誤らない冷静さと慎重さこそ、人生の進退を誤らずに歩むために不可欠な資質である。


原文とふりがな付き引用

「色(いろ)みて斯(ここ)に挙(あ)がり、翔(かけ)りて後(のち)に集(あつ)まる。曰(いわ)く、『山梁(さんりょう)の雌雉(しち)、時(とき)なるかな、時なるかな』と。子路(しろ)、之(これ)を共(とも)せしに、三(み)たび嗅(か)いで作(た)ちたりき。」


注釈

  • 色みて挙がる:気配や状況を察して飛び上がる。警戒と慎重さの象徴。
  • 翔りて後に集まる:しばらく舞って、安全を確認した後で着地する。
  • 時なるかな:まさに「時機を誤らない」という賛嘆の言葉。繰り返すことで強調されている。
  • 三たび嗅いで作つ:匂いを慎重に確認してから動く。即断せず確かめる態度。

1. 原文

色斯擧矣、翔而後集。曰、山梁雌雉、時哉、時哉。子路共之、三嗅而作。


2. 書き下し文

色(いろ)みて斯(ここ)に挙(あ)がり、翔(かけ)りて後に集(と)まる。
曰(いわ)く、「山梁(さんりょう)の雌雉(しち)、時(とき)なるかな、時なるかな」と。
子路(しろ)、之(これ)を共(とも)にせしに、三たび嗅(か)いで作(た)ちたり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「色みて斯に挙がり、翔りて後に集まる」
     → 雌のキジが人の気配に反応して飛び立ち、しばらく舞ってから地面に降り立った。
  • 「曰く、山梁の雌雉、時なるかな、時なるかな」
     → 孔子はそれを見て言った。「山の尾根の雌のキジよ、まさに良い時期だな、なんと良い時期だろう」と。
  • 「子路之を共にせしに、三たび嗅いで作ちたり」
     → 子路がその雌キジに餌をやったところ、雌キジは三度匂いをかいだあと、飛び去ってしまった。

4. 用語解説

  • 色みて挙がる:鳥が外界の刺激(気配・動き)を感じて飛び立つこと。ここでは「色」は警戒や動揺の表情。
  • 翔而後集(しょうじごうしゅう):空を舞ってから地面に戻る=飛翔して降り立つ様。
  • 山梁(さんりょう):山の尾根や小高いところ。自然の中の象徴的な舞台。
  • 雌雉(しち):雌のキジ。しとやかで警戒心の強い鳥とされる。
  • 時哉(ときかな):時節のよさ・環境の整いを賞賛する表現。感嘆詞。
  • 共(とも)にす:餌を与える、または食事を共にする意。
  • 三嗅而作:「三たび嗅いで作つ」=餌を三度嗅いでから飛び立った。用心深さ・警戒心の象徴。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

雌のキジが、周囲に気を配りながら飛び立ち、空を舞ったあと地に降り立った。
その様子を見て孔子は「山の尾根の雌キジよ、良い時節になったなあ」と感嘆した。
子路が餌を与えようとすると、雌キジは三度匂いをかぎ、警戒したのち、飛び去ってしまった。


6. 解釈と現代的意義

この章句は一見、自然の描写に見えますが、寓意を含んだ孔子の観察と感慨が込められています。

  • 雌キジの慎重な動作は、人間の用心深さや慎重さ、自由への本能的な欲求の象徴と見られる。
  • 孔子の言葉「時なるかな」は、「今が行動の時である」「しかしその時に慎重さを忘れてはならない」という機と慎みの対比を映し出しています。
  • 子路の行動は親切心ではあるが、結果として**“過剰な介入”が本来の自由を損なった”**とも解釈されうる。

7. ビジネスにおける解釈と適用

⏳ 「時を見て、しかし慎重に動く」

  • ビジネスにおける「今がチャンスだ」という場面こそ、十分なリスク評価と用心が必要
  • 慌てず、三度“嗅ぐ”ような確認をしてから飛び立つ=熟慮した行動こそが成功につながる

👥 「相手の自由と本質を尊重する」

  • 子路のように親切のつもりで近づいても、相手の信頼や独立性を侵す場合がある
  • 部下・取引先への“善意の介入”も、相手の用心深さ・準備状況を尊重した対応が求められる。

🌿 「自然観察に学ぶ“調和の知恵”」

  • 孔子は小動物の動きからも、時・環境・人間のあり方を読み取っていた
  • 自然の摂理や変化を敏感に感じ取ることは、変動の時代のリーダーシップに通じる視座である。

8. ビジネス用の心得タイトル付き

「“時”を知り、“慎み”を忘れず──動くときこそ静かに備える」


この章句は、一羽の雌キジの動きの中に、時機・慎重・自由・礼儀といった多くの人間的テーマを重ねている、味わい深いエピソードです。

孔子の視線はただ自然を眺めるのではなく、自然を通して人を観、理を読む
この洞察力こそが、現代における“しなやかなリーダーシップ”の参考になるのです。


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