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信念・見地・決断──三つの軸で己を守る

人生には、逆風や嵐のように困難が襲いかかるときがある。そのときに必要なのは、大地にしっかりと脚を踏みしめるような「強い信念」である。

一方、華やかな花が咲き誇り、美しい柳が風に揺れるように、魅惑的なものや誘惑に囲まれるときもある。そのようなときには、目を奪われて心を乱さぬよう、「高い見地」から冷静に物事を見渡す力が求められる。

そして、道が危うく、小道が険しいと感じたときは、固執せずに「すばやく引き返す」決断力が重要となる。信念を持ちながらも、柔軟に方向転換できる心のしなやかさが必要なのだ。

洪自誠のこの教えは、「正しい目標を定め、心を定め、揺るぎない芯を持ちながら、状況に応じて変化にも対応する」ことの大切さを説いている。
フランスの思想家モンテーニュもまた言う――「心は正しい目標を欠くと、偽りの目標にはけ口を求める」と。
つまり、正しい指針を持つことが、自分を迷いから救うのだ。


原文と読み下し

風(かぜ)斜(なな)めにして雨(あめ)急(きゅう)なる処(ところ)は、脚(あし)を立(た)て得(え)て定(さだ)めんことを要(よう)す。
花(はな)濃(こ)やかに柳(やなぎ)艶(えん)なる処は、眼(め)を着(つ)け得て高(たか)からんことを要す。
路(みち)危(あや)うく径(こみち)険(けわ)しき処は、頭(こうべ)を回(まわ)らし得て早(はや)からんことを要す。


注釈

  • 脚を立て得て定めん:困難な状況でも、信念を持ってぶれずに立つこと。心の強さ。
  • 眼を着け得て高からん:誘惑や美に惑わされず、常に高い視点・価値観で物事を見る姿勢。
  • 頭を回らし得て早からん:状況の危険に気づいたとき、躊躇なく方向を変えられる判断力と柔軟性。
  • モンテーニュの言葉:“心は正しい目標を欠くと、偽りの目標にはけ口を求める”
    → 指針なき心は迷いに呑まれる。ゆえに正しい目標と信念が必要。

パーマリンク(英語スラッグ)案

  • three-pillars-of-wisdom(知恵の三本柱)
  • stand-high-turn-fast(踏みとどまり、高く見て、すぐに動く)
  • clarity-courage-flexibility(明晰さ、勇気、柔軟性)

この心得は、ビジネスにおけるリーダーシップ、人生の選択、価値観の保持すべてに通ずる教えです。揺るがぬ芯と、変化へのしなやかさ。その両方を持つ人こそ、混乱の時代においても道を誤らないのです。

目次

1. 原文

風雨斜急處、立得脚定。
濃花艷柳處、着得眼高。
路危徑險處、回得頭早。


2. 書き下し文

風斜めに雨急なる処は、脚を立て得て定めんことを要す。
花濃やかに柳艶なる処は、眼を着け得て高からんことを要す。
路危うく径険しき処は、頭を回らし得て早からんことを要す。


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)

一文目:

風斜めに雨急なる処は、脚を立て得て定めんことを要す
→ 強風と急な雨の中では、足元をしっかり固めて立つことが重要である。

二文目:

花濃やかに柳艶なる処は、眼を着け得て高からんことを要す
→ 鮮やかな花や美しい柳の景色の中では、目線を高く保ち、惑わされぬようにすることが大切である。

三文目:

路危うく径険しき処は、頭を回らし得て早からんことを要す
→ 危険な道や険しい小道に差しかかれば、すぐに方向転換できる柔軟な判断が必要である。


4. 用語解説

  • 風雨斜急(ふううしゃきゅう):風が斜めに吹きつけ、雨が急に降るような荒天の比喩。困難や混乱の状況。
  • 脚定(きゃくさだめ):足場をしっかりと固めること。立ち位置・基盤を安定させる。
  • 濃花艷柳(のうかえんりゅう):華やかな景色、美しく魅惑的なものの比喩。誘惑・甘言・華美な環境など。
  • 眼高(がんこう):高い目線。大局的で俯瞰的な視点。軽薄に流されない判断。
  • 路危徑險(ろきけいけん):危険な道・険しい小道の意。危機的・不安定な状況。
  • 頭早回(あたまはやくまわす):素早く判断し方向転換すること。柔軟性と機転。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

強風と急な雨が吹きつけるような厳しい状況では、まず足元をしっかり固めることが重要だ。
また、花が咲き誇り、柳が美しく風に揺れるような華やかな場面では、心を惑わされぬように目線を高く保つべきである。
さらに、道が険しく危険な場所に差しかかったときには、迷わず早く頭を切り替え、方向を変える柔軟な判断力が求められる。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「三つの異なる局面における処世の心得」**を説いています。

  1. 混乱・危機のときは足場を固めよ
    → 社会や組織の混乱時、自分の役割・立ち位置・原則を見失わず、踏ん張ること。
  2. 魅惑・栄華のときは視野を保て
    → 成功や誘惑に満ちた環境では、軽々しく飛びつかず、本質を見る「高い視点」が必要。
  3. 危険・迷いのときは早く方向を変えよ
    → 誤りやリスクに気づいたら、早期に撤退・修正できる柔軟な姿勢が生存の鍵となる。

すなわちこの章句は、「状況別の心構えと行動指針」を簡潔かつ具体的に教えてくれる人生の指針です。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

●「混乱時こそ、基本に立ち戻り“足場”を固めよ」

トラブル・クレーム・市場混乱の中では、焦って動くより、自分の役割・ビジョン・行動原則を明確にし、組織としての“脚を定める”ことが先。

●「好景気・成功時こそ“高い目線”を保て」

売上増や評価が高まる中でこそ、浮かれず、本質的価値や長期的視点を失わないことが大切。華美に心を奪われず、地に足のついた視座を。

●「危機に気づいたら、早めの“撤退・転換”が肝心」

計画や戦略の誤りに気づいたら、感情や惰性に流されず、素早く頭を切り替え方針を変更する決断力が、企業存続・事業成長に直結する。


8. ビジネス用の心得タイトル

「混乱に踏ん張り、誘惑に惑わされず、危機にすぐ退け──三つの“定・高・早”が運を拓く」


この章句は、「混乱・誘惑・危機」という三つの象徴的な局面において、人がどう在るべきかを見事に描いています。まさに現代のビジネス環境においても通用する「実践的なリーダーの心得」です。

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