お腹が満ちたあとで食事を振り返れば、味の良し悪しの違いなど、どうでもよく思えてくる。
情欲を満たした直後には、かつての激しい欲望もすっかり薄れ、無意味に思えてくる。
このように、人は「何かを終えたあと」にようやく冷静になり、本質を見極めるものだ。
だからこそ、行動する前に「それが終わったあとの自分の気持ち」を先に想像しておくことで、
愚かな迷いや衝動に流されず、本心が安定し、正しい選択ができるようになる。
悔やむ前に、悔やんだ後の自分を想像する――それが誤りを避ける最良の方法である。
「飽後(ほうご)に味(あじ)を思(おも)えば、則(すなわ)ち濃淡(のうたん)の境(きょう)都(すべ)て消(き)え、
色後(しょくご)に婬(いん)を思えば、則ち男女(だんじょ)の見(けん)尽(ことごと)く絶(た)ゆ。
故(ゆえ)に人(ひと)常(つね)に事後(じご)の悔悟(かいご)を以(もっ)て、
事(こと)に臨(のぞ)むの痴迷(ちめい)を破(やぶ)らば、則ち性(せい)定(さだ)まりて動(うご)くこと正(ただ)しからざるは無し。」
注釈:
- 濃淡の境(のうたんのきょう)…味の濃さ・薄さ、うまい・まずいという区別。
- 色後(しょくご)…情欲を満たした直後の状態。
- 男女の見(だんじょのけん)…男女が互いに求め合う心や欲望。
- 悔悟(かいご)…後悔して目が覚めること。やってしまったあとの虚しさ。
- 痴迷(ちめい)…愚かで迷った心。衝動や本能に流される状態。
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