固定費の割掛けが経営判断に与える影響について、これまでさまざまな例を通じて議論してきました。
固定費は、どのような商品を生産し、どのような販売戦略を取ろうとも、基本的に一定額が発生する費用です。
この「変わらない性質」を正しく理解することが、経営判断の正確性を高める第一歩です。
固定費の本質とその不変性
固定費は経営全体にかかる費用であり、期間に応じて一定に発生します。たとえば以下のようなケースを考えてみましょう。
設備の減価償却費
設備が変更されない限り、減価償却費の額は一定です。
人件費
人員が増減しない限り、超過勤務の変動を除けば人件費は基本的に変わりません。
自動車関連費用
車両を使うかどうかにかかわらず、減価償却費、税金、保険料は一定です。
このように、固定費は事業活動の選択によって直接的な変動を受けないため、経営判断において過剰に考慮することは誤解や混乱の原因になります。
重要なのは、「固定費のように変わらないものは、経営の選択肢を評価する上では意味を持たない」という点です。
「変わる部分」への注目:正しい判断の基準
経営判断において注目すべきは、「変わる部分」に焦点を当てることです。
この考え方を日常生活に例えると、次のように説明できます。
靴の選択の例
気に入った靴が2足あり、価格、品質、デザインが同じで、色だけが異なるとします。この場合、判断基準は「色」だけに絞られます。価格、品質、デザインは変わらないため、比較する必要はありません。この「異なる部分だけを比較する」という当たり前の原則が、経営判断にも適用されるべきです。
固定費割掛けによる混乱を避ける
固定費を商品や部門に割り振るという従来の方法は、見かけ上の原価や利益を変動させる錯覚を生み出し、混乱を引き起こします。そのため、経営判断を行う際には、「固定費割掛けの理論」を捨て去り、「変わるものにだけ注目する」という正しい考え方に立ち返ることが重要です。
過去の例題に学ぶ:変わる部分だけを比較する
これまでの例題を振り返ると、「変わる部分に注目する」という考え方が経営判断をシンプルかつ効果的にすることが分かります。
- スキー宿の原価計算
客数と粗利益の関係だけを注目すれば、収益性を評価するのに十分です。固定費の割掛けを考慮する必要はありません。 - 商品別損益比較
商品ごとの売価と変動費に焦点を当てることで、収益性を正確に把握できます。固定費を含めて議論すると、不要な混乱を招く原因になります。 - 部門別損益計算
部門ごとの変動要素に注目し、それに基づいて収益性を計算すれば、各部門のパフォーマンスを正しく評価できます。
応用可能な経営判断の基本原則
「変わる部分だけを比較する」という原則は、特定のケースに限らず、さまざまな経営状況に応用できます。たとえば次のような状況でこの考え方を活用することができます。
- 新商品開発の評価
新商品の収益性を評価する際には、開発コストや市場での価格設定といった変化する要素に注目します。 - 事業撤退の判断
特定の事業を継続するか撤退するかを決める際には、撤退によって削減できる費用や、新たに発生するコストを比較します。 - 設備投資の意思決定
設備更新や新規購入の判断においては、投資による収益増加や費用削減効果に焦点を当てます。
まとめ:変わるものを見極め、経営判断に活かす
経営において、「変わるもの」と「変わらぬもの」を正しく区別することは、効果的な意思決定を行うための基本です。固定費のように選択によって変わらない要素を過剰に議論に含めることは、無意味な混乱を引き起こします。
「変わる部分だけを比較する」というシンプルな原則に基づけば、判断は明確になり、無駄な議論を排除できます。このアプローチを実践することで、経営資源を効果的に活用し、より良い成果を得ることができるでしょう。
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