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■引用原文(『ダンマパダ』第十三章 第176偈)
唯一なることわりを逸脱し、偽りを語り、彼岸の世界を無視している人は、どんな悪でもなさないものは無い。
― 『ダンマパダ』第176偈(中村元訳)
■逐語訳(逐文的な意味の解釈)
- 唯一なることわりを逸脱し:根本的な真理(ダルマ)を離れ、正道から外れること。
- 偽りを語り:嘘や虚言を平気で語ること。誠実さの欠如。
- 彼岸の世界を無視している人は:解脱や悟り(涅槃)といった、精神的究極を顧みない者は、
- どんな悪でもなさないものは無い:制御を失い、どんな非道な行為でも平気で行ってしまう。
■用語解説
- 唯一なることわり(ダルマ):宇宙と人間の根源的法則・倫理。真理・正義・仏教の根本教理。
- 偽りを語る(ミューサーヴァーダ):仏教五戒のひとつ。意図的な嘘、虚偽の陳述を禁じる行為。
- 彼岸の世界(パーラ):苦の彼岸=悟り・涅槃。真の安寧と自由の境地。
- なさないものは無い:悪の抑制がまったく効かず、すべての悪行が可能となる。
■全体の現代語訳(まとめ)
「ただ一つの真理から逸れ、虚偽を語り、悟りの境地を意識しない者は、
どんな悪事でも平然と行うようになる。――真理と誠実を失った人間に、行動の歯止めは無い。」
これは、倫理の根幹である「真理を知り、語り、目指す」という生き方の崩壊が、全面的な堕落を招くことを鋭く指摘している。
■解釈と現代的意義
この偈は、「悪を止める最後の砦は“真理”である」という核心を突いています。
信じるべき真理がなくなれば、人は自分を律する理由を失い、行動の基準が消滅します。
また、虚言が当たり前になったとき、社会は信頼と秩序を失い、あらゆる悪が正当化されてしまう――それがこの偈の警鐘です。
現代においても、個人・企業・国家が「誠実さ」「真理」「未来への責任」を放棄したとき、どれだけの混乱と悪が生まれるかは明らかです。
この偈は、「何を信じ、どう語り、どこを目指すか」が、私たちの人間性と行動の境界を決めるのだと教えています。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
企業倫理 | 使命やビジョンという「唯一なる価値観」を見失った企業は、短期的な利潤のために不正を繰り返すようになる。 |
リーダーの誠実さ | 嘘やごまかしが常態化すれば、チームや顧客との信頼関係が崩壊し、組織は倫理的に瓦解する。 |
パーパスドリブン経営 | 高い理想(彼岸)を見失った経営は、表面的な数字追求に走り、社会的信頼を失う。 |
個人の判断軸 | 「何が正しいか」という信念なく、「何が得か」だけで動く人は、際限なく悪に染まっていくリスクがある。 |
■心得まとめ
「真理を見失い、嘘を語る者に、悪の底はない」
この偈は、警告であり問いかけです。
――あなたは、何を信じて生きているか?
――あなたの言葉は、真実を語っているか?
――あなたは、どこを目指しているのか?
それらを見失うとき、人はあらゆる悪へと堕ちてしまう。
だからこそ、真理に向かう意志と、誠実な言葉を忘れてはならないのです。
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