■ 引用原文(日本語訳)
自分の益になるものであると知り得ることを、あらかじめ為すべきである。
(無暴な)車夫のような思いによらないで、賢者はゆっくりと邁進すべきである。
――『ダンマパダ』第四章「はげみ」第16節
■ 逐語訳(一文ずつ現代語訳)
- 自分にとって本当に益となると理解できることは、
将来的に自分を高め、守り、導くとわかっていることは、 - 前もって準備して、実行しておくべきである。
いざというときではなく、早いうちから取りかかることが大切である。 - 暴れ馬のような心にまかせず、車夫のように静かに制御しながら、
感情や衝動に流されるのではなく、理性と熟慮で行動を導く。 - 賢者は、慎重に、しかし確実に道を進むべきである。
焦らずに、しかし確かな意志と判断で、着実に歩み続けるのが賢者の道である。
■ 用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
益になること(ヒタ) | 瞬間的な快楽ではなく、真の幸福・成長・悟りにつながる行為。 |
あらかじめ為す(プーヴァ・カッタヴィヤ) | 先を見越し、準備し、計画的に行動する姿勢。 |
車夫(サーラティ) | 馬車を操る者。ここでは自分の心を律し導く象徴。 |
思いによらない(アサンカッパ) | 衝動や未熟な判断に左右されないこと。 |
邁進する(パヴィジャヤ) | 一歩ずつ確実に進む。内面的成長の継続を意味する。 |
■ 全体の現代語訳(まとめ)
将来の利益、成長、真の幸福につながると確信できることは、
できるだけ早いうちに準備し、取り組んでおくべきである。
心の衝動に任せず、あたかも穏やかな車夫のように、
理性をもって自己を律しながら、ゆっくりと、しかし確実に前に進むべきである――
それが賢者の進む道である。
■ 解釈と現代的意義
この節は、「衝動ではなく熟慮と準備によって人生を進めよ」という指針を与えています。
現代はスピードと即決がもてはやされる時代ですが、本当に大切なことほど“ゆっくり着実に”進むべきなのです。
思いつきや感情に振り回される人生では、長期的成果も心の安定も得られません。
「車夫のように静かに自己を制御する」という比喩は、すべての現代人に有効な戒めと導きです。
■ ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
戦略的計画 | 中長期的に「意味のある仕事」に着手すること。緊急ではなく“重要なこと”に先んじて動く。 |
感情のマネジメント | 衝動的な意思決定を避け、冷静で計画的に判断することでミスや後悔を減らす。 |
スロービジネスの重要性 | 短期の成果にこだわらず、質を重視して信頼と持続可能な関係を築く姿勢。 |
習慣形成と継続性 | 小さな積み重ねを怠らず、毎日少しずつ前に進める人が最終的に大きな結果を出す。 |
■ 心得まとめ
「賢者は焦らず、確かな道を進む。」
思いつきではなく、見通しをもって生きる。
衝動に駆られるのではなく、自らを導き、制御しながら進む。
その慎重さと継続の力こそが、最終的に最も遠くへ、最も確かに導いてくれる。
それが、仏教の教える“静かなる力”である。
コメント