目次
一、原文と逐語訳
原文:
大難大変の時も一言なり。仕合せよき時も一言なり。当座の挨拶話の内も一言なり。
工夫して云ふべき事なり。ひつかりとするものなり。確に覚えあり。精気を尽し、かねがね心がくべき事なり。
これは、めつたに話しにくき事なり。皆心の仕事なり。心に覚えたる人ならでは知るまじとなり。
逐語訳:
- 災難や重大な局面でも、決定的なのは一言である。
- 幸運な出来事においても、一言がその価値を定める。
- ちょっとした挨拶や日常会話の中でも、一言が重みを持つ。
- それを言うには、工夫と集中力が必要だ。
- 一言が場の空気を引き締める力を持っている。
- 自分にもそれを実感した経験がある。
- しっかりと精気を込め、日頃から心構えをもっておくべきである。
- これは言葉で説明しきれない。すべては心の働きである。
- 心で会得した者にしか分からない境地である。
二、用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
一言なり | 物事を決定づける一言の意義 |
工夫して云ふ | 熟慮・配慮をもって言葉を選ぶ |
ひつかりとする | 緊張感・気が引き締まること |
精気を尽す | 精神を集中すること |
心に覚えたる人 | 心法を修めた者、心得ある者 |
三、全体の現代語訳(まとめ)
大きな困難に直面したときも、幸運な出来事があったときも、さらには日々の挨拶の中でも、**決め手になるのは「一言」**である。
その一言をどう言うかによって、場の雰囲気が引き締まり、人心を動かす。
だからこそ、言葉には心を込め、常に心の準備を怠ってはならない。
だがこの「一言の重み」は、言葉では説明しづらく、本当に心得のある者にしか体得できない境地なのである。
四、解釈と現代的意義
この章句は、言葉の持つ決定力と、その背後にある人間の精神の重みについて述べたものです。
現代社会においても、次のような場面で「一言」が決定的です:
- 面談や交渉での締めの一言が、契約を左右する。
- 部下や後輩への声がけが、信頼関係を築く分岐点になる。
- 会議でのコメントが、議論を前進させる突破口となる。
- 災害時や緊急対応時に放つ「一言」が、人心を落ち着かせる。
いずれも、場に応じた言葉を即座に発するには、日頃の訓練と心の用意が不可欠です。
五、ビジネスにおける応用
シーン | 実践例とアドバイス |
---|---|
会議の発言 | 相手に「この人の言葉には芯がある」と思わせる一言を意識する。言葉選びは、事前にシナリオを描く心がけが必要。 |
トラブル対応 | 混乱時には「心配ありません、私が責任を持ちます」などの責任感ある一言が信頼を集める。 |
商談や契約交渉 | 決断を促すには、「この一言が背中を押す」という覚悟ある言葉が求められる。 |
日常の声かけ | 「ありがとう」「おつかれさまです」のような基本の一言こそ丁寧に。形式的でない響きを大切にする。 |
六、まとめと教訓
「備えある心から、一言は生まれる」
その場しのぎで発した言葉は軽い。
しかし、日々の鍛錬と心構えから出る一言は、剣よりも鋭く、人の心を動かす力を持つ。
『葉隠』は、武士道を通じて「言葉」の重さと、「心が先、言葉は後」という哲理を教えてくれます。
この一言の重みを、ぜひ日々の実践に活かしてみてください。
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