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■引用原文
天地之道、可壱言而尽也。其為物不弐、則其生物不測。天地之道、博也、厚也、高也、明也、悠也、久也。
今夫天、斯昭昭之多、及其無窮也、日月星辰繫焉、万物覆焉。
今夫地、一撮土之多、及其広厚、載華嶽而不重、振河海而不洩、万物載焉。
今夫山、一巻石之多、及其広大、草木生之、禽獣居之、宝蔵興焉。
今夫水、一勺之多、及其不測、黿蛟竜魚鼈生焉、貨財殖焉。
詩曰、惟天之命、於穆不已。蓋曰天之所以為天也。於乎不顕、文王之徳之純。蓋曰文王之所以為文也。純亦不已。
■逐語訳
- 天と地の道(自然の道理)は、一言で言い尽くすことができる。
- その存在の本質が「一(いつ)」であり、混ざりけのないものであるからこそ、
- 無限の生命を生み出すことができるのである。
- 天地の道は、広く(博)、深く(厚)、高く(高)、明るく(明)、はるかに遠く(悠)、そして長く続く(久)。
- 例えば天は、たったひとすじの光が集まってできている。
しかし、その光が無数に積み重なれば、太陽や月、星々が連なり、あらゆる生命をその下に覆う。 - 地もまた、一握りの土が積み重なり、広大で深厚となって、
巨大な山(華山・嶽山)をも載せ、川や海を受け止め、万物をその上に載せている。 - 山も、一片の石から成り、そこに草木が生え、鳥獣が住み、宝物も眠る。
- 水も、一滴の雫から成り、やがて無限に集まって、そこに黿・蛟・竜・魚・鼈が生まれ、財宝も繁栄する。
- 『詩経』にはこうある――
「天の命は、ああ深遠であって止まることがない」
これは天が天である所以を示すものだ。 - またこうもある――
「ああ、何と顕らかなことか。文王の徳の純なることよ」
これは文王が文王である所以を示す。 - この純一な徳もまた、終わりなく続くのである。
■用語解説
用語 | 意味 |
---|---|
壱言にして尽くす | 一言で言い尽くせるほど単純かつ純粋であるということ。 |
不弐(ふに) | 混ざり気のない一筋な状態。「誠」の別表現。 |
斯昭昭(ししょうしょう) | 目の前の明るい輝き。天の光明。 |
一撮土・一巻石・一勺水 | 最小単位の土・石・水のたとえ。偉大なものが微細なものの積み重ねで成ることを示す。 |
黿・蛟・竜・魚・鼈 | 水に生息する様々な生物。豊穣・生命の象徴。 |
詩曰 | 『詩経』の引用を示す。周王朝を賛美する歌。 |
於穆(おぼしき)不已(やまず) | 深遠で立派なことが永遠に続く様。 |
不顕(ふけん) | 極めて明らかであるさま。「丕顕(ひけん)」=大いに顕れる、の意。 |
純亦不已 | 純粋であることもまた、終わることがない。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
天地自然の道理は、たった一言で言い表せる「純一」の道である。
それが混ざり気のないまま、深く・高く・広く・明るく・悠久に続いているがゆえに、無限の命や財が生まれる源となっている。
この道理は、目の前のわずかな光、ひとつまみの土、一片の石、一滴の水のような些細なものが、無数に積み重なって、やがて大空、大地、山、川、そして生命や宝を生み出すという自然の創造の法則を示す。
詩経に詠われるように、「天」は誠の道を持ち、「文王」は純一の徳を有していた。
いずれもそれは絶えず息むことのない、持続する徳の姿である。
■解釈と現代的意義
この章の核心は、「一にして純」なものが、限りない生成を可能にするという原理です。現代的に言えば:
- 成功の根本にあるのは、小さな行為の積み重ね
- 一貫した信念や誠実さ(=「不弐」)が、持続的な創造と成長を生む
- 大義(天・地)を目指すには、目の前の「一撮土」「一勺水」の努力を怠らない
つまり、真のリーダーシップや継続的な成果とは、一筋の誠の積み重ねから成るということです。
■ビジネスにおける解釈と応用
観点 | 内容 |
---|---|
理念形成 | 企業理念・ビジョンは「壱言にして尽くす」べき。ブレない核が成長を支える。 |
日々の業務 | 小さな改善や丁寧な対応の積み重ねが、大きな成果を生む。 |
組織マネジメント | 一貫性のある方針(不弐)を持つことで、組織全体に誠が広がり、創造的で持続可能な変化が起きる。 |
人材育成 | 若手の小さな成功体験を積み重ねて「高明」に至らせる長期的育成が必要。 |
ブランド構築 | 「純一の徳」を象徴する誠実なブランドは、時代を越えて信頼され続ける。 |
■心得まとめ
「大いなるものは微に始まり、誠の純一こそ無限の創造を生む」
- 一滴の水から海が成る
- 一掬の土から大地が広がる
- 一筋の誠から事業が繁栄する
天地の道に学び、誠実で一貫した日々の積み重ねが、やがて人も企業も時代を支える大樹となるのである。
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