孟子は、人が求めるべき「道(みち)」や「仕事(つとめ)」は、実はとても近く、やさしいものだと説く。
にもかかわらず、多くの人はそれを遠くの特別な場所に探しに行き、難しいものにすり替えてしまう。
- 道は身近なところにある。
- 行うべきことは、本来やさしいことである。
たとえば、
- 自分の親を親として敬い、大切にすること。
- 周囲の年長者を年長者として、敬意をもって接すること。
このようにごく当たり前の倫理を実行することが、天下を平らかに治めることの出発点であると孟子は言う。
特別な行為や英雄的な努力ではなく、日常の「当たり前」を誠実に積み重ねることが、社会の秩序と平和を生むのだ。
この言葉は、『論語』にある「仁、遠からんや。我仁を欲すれば、斯に仁至る」に通じる思想である。
つまり、仁や道徳は、求めればすぐそこにあるということだ。
原文(ふりがな付き)
孟子(もうし)曰(いわ)く、
道(みち)は爾(ちか)きに在(あ)り。而(しか)るに諸(これ)を遠(とお)きに求(もと)む。
事(こと)は易(やす)きに在り。而るに諸を難(かた)きに求む。
人人(ひとひと)其(そ)の親(おや)を親(した)しみ、
其の長(ちょう)を長(たっと)ばば、
天下(てんか)平(たい)らかなり。
注釈
- 爾(ちか)きに在り:「爾」は「なんじ」、転じて「近く」にあるもの。自分の内や身のまわりを指す。
- 事は易きに在り:やるべきことは実は難しいことではなく、日常の中にある「易しい」行為である。
- 親を親とす/長を長とす:血縁としての親を親しみ、年長者を敬うという、自然で根本的な倫理。
- 天下平らか:社会秩序が穏やかで、混乱のない状態。家庭の徳が広がれば国も安定するという儒教の根本思想。
パーマリンク案(英語スラッグ)
- the-way-is-near(道はすぐそばに)
- peace-starts-at-home(平和は家庭から)
- honor-the-near-and-simple(身近で簡単なことを大切に)
- 仁-is-within-reach(仁は手の届くところにある)
この章は、孟子思想の根底にある**「倫理の実践は日常にあり、遠くを求めるな」**という教えを簡潔に表現した珠玉の言葉です。
原文
孟子曰、道在爾而求諸遠、事在易而求諸難。人人親其親、長其長、而天下平。
書き下し文
孟子曰(いわ)く、
道(みち)は爾(なんじ)に在りて、これを遠きに求む。
事(こと)は易きに在りて、これを難きに求む。
人人(ひとびと)、其の親を親しみ、其の長を長とすれば、
天下(てんか)平らかなり。
現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 孟子は言った:
- 正しい生き方(道)は、あなた自身の中にあるのに、わざわざ遠くに求めようとする。
- 物事の本質は、簡単なところにあるのに、わざわざ難しいところに探そうとする。
- すべての人が、
- 自分の親を親しみ、
- 自分より上位の者をきちんと敬えば、
- 天下は自然と平和になるであろう。
用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
道(みち) | 正しい在り方、倫理、人生の指針。 |
爾(なんじ)に在り | 自分の内にある、自分自身にかかっているという意味。 |
親(しん)ずる | 親しみ、敬い、大切にすること。 |
長(ちょう) | 年長者・上司・目上の人。 |
平(たいらか)なり | 安定し、争いがない状態。平和・和合を意味する。 |
全体の現代語訳(まとめ)
孟子はこう語った:
「正しく生きる道は、自分自身の中にあるのに、
わざわざ遠いところにそれを探そうとする人がいる。
また、物事の解決は実は簡単なところにあるのに、
それを難しく複雑に考えてしまう人がいる。」
だが本当に必要なのは、
すべての人が自分の親を親しみ、年長者をきちんと敬うこと。
これが徹底されれば、自然と天下は安定し、平和になるのだ。
解釈と現代的意義
この章句は、道徳・社会秩序・問題解決の本質が
「身近な実践」にあることを説いた、孟子らしい端的で力強い訓戒です。
1. 答えは「遠く」ではなく「自分の内側」にある
- 解決策を“他人”や“理論”、“制度”に求めるのではなく、まず「自分のあり方」に目を向けよという自省のすすめ。
2. 社会の安定は「当たり前」の積み重ねである
- 自分の親を大切にする、人として年長者を敬う──
これが全員に徹底されることで、自然と秩序が生まれる。 - 難しい法律や複雑な組織改革よりも、「基本的な人倫の実践」が先にある。
3. シンプルな原理を、真摯に実践することが改革である
- 「道徳の再確認」は、表面的で形式的になりがちだが、孟子はそこにこそ平和の源があると断言している。
ビジネスにおける解釈と適用
1. リーダーシップや組織改革は「足元の信頼」から始める
- 新しい制度やマネジメント手法を導入する前に、まず部下や上司との人間関係の信頼構築が不可欠。
- 「部下を大切にする」「上司を敬う」──こうした人倫の実践が、組織の文化を形成する。
2. 複雑な問題は、実は基本の徹底で解決できる
- 売上不振、離職率、チーム崩壊といった問題も、「当たり前」のことを丁寧にやるだけで立て直せることがある。
- 例:「顧客の声を聞く」「日常のあいさつを怠らない」「感謝の言葉を伝える」
3. 自分の“道”は、自分の中にある
- 他人の成功事例や流行に飛びつく前に、自分自身の価値観や人間性を磨くことが、本物の成長につながる。
ビジネス用心得タイトル
「遠くに答えを求めるな──“仁義の実践”が平和と成功をつくる」
この章句は、現代の混迷する社会や複雑化するビジネスに対して、
**「本質は身近にあり、シンプルである」**という真理を強く語りかけています。
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