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淡々と読む力――判断を誤らせぬための“無私”の声


目次

一、原文と逐語訳

原文:

羽室権右衛門目安読み候物語の事
権右衛門は、公儀与力にて候を、女房、お春様ヘ乳を上げ申し候に付てお出入仕り、
その後相願ひ、御家来に罷成り候。
権右衛門話に、公儀御評定所にて目安の読様、節調子なしに、ぬらりと読み申し候。
調子よく読み候へば、御役員方能くお聞取り候に付て、依情出来申すとの吟味の由。

現代語訳(逐語):

羽室権右衛門は、もとは幕府の与力であったが、妻が鍋島光茂の三女・お春様に乳を差し上げた縁から鍋島家へ出入りするようになり、その後、願い出て鍋島藩の家臣となった。
彼の話によると、江戸幕府の評定所(裁判機関)で訴状を読み上げるときには、節や調子をつけず、平坦に淡々と読むのが作法とされていた。
なぜなら、調子よく読み上げると、評定役人の耳に入りやすくなり、感情に流されて中正な判断を誤る恐れがあるからだという。


二、用語解説

用語意味
公儀与力幕府直轄の警察的役割を担う者(町奉行や評定所配下の役人)
評定所江戸幕府の高等裁判機関
目安(めやす)訴状・請願書・告発文など
節調子(ふしちょうし)感情のこもった語り口調、抑揚や読み上げ方のトーン
依情(いじょう)情に依る、感情に引きずられること

三、全体の現代語訳(まとめ)

羽室権右衛門という男は、もともと幕府の役人だったが、妻が鍋島家に仕えていた縁で家臣となった。
彼が語った話によると、江戸幕府の裁判所(評定所)では、訴状を読み上げる際には抑揚をつけてはいけなかったという。
なぜなら、感情的な読み方は、審判役の心に無用な印象を与え、中立性を損なうからである。


四、解釈と現代的意義

この章句の中核には以下のような思想がある:

「事実は事実として、感情を交えずに伝えるべきである」

江戸時代の司法制度においても、“公平・中正な判断”を重んじるために、形式や方法にも厳しい戒めがあったことを示しています。

これは現代でも非常に通用する感覚です。たとえば:

  • 裁判・議事録・報告書などで「事実」と「意見」「感情」を明確に区別する重要性
  • メディア・報道での客観的な言葉選び
  • ファシリテーターや第三者が中立性を保つために、「感情をあおる語り」を避ける工夫

五、ビジネスにおける応用

⚖️ 社内文書・会議・クレーム処理において

シーン葉隠的に望ましい対応
トラブル報告感情的に訴えず、事実を淡々と簡潔に報告
上申書・議事録自分の意見を入れず、時系列と事実を正確に記録
交渉や訴訟表現で相手にプレッシャーをかけず、正確な情報伝達を心がける

このように、「冷静な報告・訴求」は、**判断者が誤らぬための“慎み”**とも言えます。


六、ビジネス用の心得まとめ

「正しく伝えるには、色気より静けさ。――情を交えぬ“ぬらり読み”にこそ信が宿る」

内容に自信があれば、飾らずとも伝わる。事実を歪めぬ誠実な姿勢が、最も信頼される伝達の形です。

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