■引用原文(書き下し文付き)
原文:
生財有大道、生之者衆、食之者寡、為之者疾、用之者舒、則財恒足矣。
仁者以財発身、不仁者以身発財。
未有上好仁、而下不好義者也。
未有好義、其事不終者也。
未有府庫財非其財者也。
孟献子曰、畜馬乗、不察於雞豚、伐冰之家、不畜牛羊、百乗之家、不畜聚斂之臣、
与其有聚斂之臣、寧有盗臣。
此謂国不以利為利、以義為利也。
長国家而務財用者、必自小人矣。
彼為善之、小人之使為国家、害並至、
雖有善者、亦無如之何矣。
此謂国不以利為利、以義為利也。
■逐語訳(一文ずつ)
- 財を生むには、道理にかなった方法がある。
- 生産に携わる人が多く、消費する人が少なく、
- 作ることは迅速で、使うことはゆっくりならば、財は常に足りる。
- 仁者は財を使って自らの徳を高め、
- 不仁者は自分を犠牲にして財を得ようとする。
- 上の者が仁を好むのに、下の者が義を好まぬという例はない。
- 義を好んでいて事業が成就しないという例もない。
- 倉庫に満ちた財が他人のものになってしまうことも、まずない。
- 孟献子は言った──
- 馬を飼うような身分の者が、鶏や豚に目を光らせることはない。
- 氷を蓄える家格の者は、牛や羊を飼わない。
- 百台の車をもつ家では、税を搾り取るような臣を置かない。
- むしろそんな者を置くくらいなら、盗む臣を置いた方がまだましだ。
- これが、「国は利を利とせず、義を利とす」という意味である。
- 国を治める者が財政に偏るなら、必ず小人を起用することになる。
- 上はそれを善と見ても、小人に国を任せれば災害が立て続けに起こる。
- 善人がいても、どうすることもできない。
- これこそ「国は利を利とせず、義を利とす」という真義である。
■用語解説
- 生財有大道:健全な経済には自然の法則(=大いなる道)があるという儒家の経世観。
- 仁者以財発身:仁徳ある者は、財を手段として自分の徳を発揮する。
- 不仁者以身発財:財を目的とし、自らを犠牲にしてでもそれを得ようとする。
- 府庫:国家の倉庫・財庫。
- 聚斂之臣:民から重税を集める搾取型の臣下。
- 小人:道義より利欲を重んじる、器の小さい人物。対義語は「君子」。
- 以義為利:儒家の中心思想。「道義ある行動こそが最終的には真の利益をもたらす」。
■全体の現代語訳(まとめ)
財を豊かにするには、根本的な原則がある。
生産者が多く、消費者が少なく、
生産の速度は速く、消費は抑制的であれば、経済は安定して豊かになる。
仁者は財を使って自らの徳や人格、影響力を高めるが、
不仁者は自分を犠牲にしてでも財を追い求めてしまう。
また、上の立場にある者が仁徳を重んずれば、
民も道義に従い、社会全体が正しく運営される。
それによって国家の経済活動も自然に成り立ち、倉庫の財も安全に保たれる。
孟献子は言う。
立派な家格の者が細かな財利にこだわるようなことはなく、
まして民を痛めるような徴税の臣などは置かない。
そんな者を置くくらいなら、むしろ盗人の方がマシだ。
これは「国は利を利とせず、義を利とする」ということの証である。
国を率いる者が、道義を無視して金に固執すれば、
必ず小人物(小人)を重用することになり、
その結果、災難が立て続けに起こる。
どれだけ賢者がいても、どうにもならなくなるのだ。
これが、儒家の経済原理「以義為利」の核心である。
■解釈と現代的意義
この節では、経済活動の本質は「徳と義」にあることが明言されています。
単なる富の追求ではなく、「公正で、持続可能で、徳に基づいた経済運営」が理想とされています。
現代的意義は以下の通りです:
- 経済運営の本質はバランスと道義にある
財を得るために全てを犠牲にするのではなく、社会全体が健やかに営まれる「秩序と徳」を優先する。 - 管理職・経営者は、手段を問われる
搾取による利益は、一時的には成果を上げても、組織・国家を長続きさせない。 - 経済政策や会社経営における「小利」と「大義」
目先の利益(鶏豚)にこだわるべきか、長期の信頼・公益(国家的調和)を重んずるべきか。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
経営判断の原理 | 利益を得ること(利)ではなく、信頼と誠実さ(義)を重視する。義を通して結果としての利を得る。 |
リーダーシップの視座 | 小人(目先に走る人材)ではなく、君子(道義を重んずる人材)を登用することが、持続可能な組織づくりにつながる。 |
企業文化 | 搾取型の営業や過剰な節税よりも、顧客・社員・社会との「善なる循環」を築くことが本当の競争力になる。 |
経済倫理 | 「以義為利」こそが、ESG(環境・社会・ガバナンス)時代に最もふさわしい古典的アンサー。 |
■心得まとめ(ビジネス指針)
「義に立ち、利はあとからついてくる」
短期的な利益に固執せず、
公正・信頼・徳を軸にした経営こそ、
組織や国家を真に繁栄へ導く「大道」である。
これを見失えば、いかなる善人がいても、手の施しようはない。
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