MENU

君子が仕える場合と辞めて去る場合

仕える条件と辞めるべき条件

弟子の陳子が聞きました。
「昔の君子は、どのような場合に仕え、どのような場合に辞めて去ったのでしょうか?」

孟子は答えました。
「君子が仕える場合は三つ、辞めて去る場合も三つあります。」

仕える場合:

  1. まず、国君が迎え入れる際、敬意を尽くし、礼をもって迎え、その言葉が自分の意見を取り入れてくれそうな場合に仕えます。もし国君が自分の意見を用いず、その態度が変わらなくても、去るべきです。
  2. 次に、国君が自分の意見をすぐに使わなくても、礼を尽くして迎えてくれる場合です。もし君の態度が衰えてきたら、去るべきです。
  3. 最後に、もし朝食も夕食も食べられず、飢えのために門外に出ることもできないような場合、国君がこれを聞いて救いの手を差し伸べ、禄を与えて助けてくれた場合、死を免れるためにそれを受け入れますが、それ以上多くを受け取るべきではなく、すぐに辞めるべきです。

辞めて去る場合:

  1. 仕えた国君が自分の意見を聞かず、態度が変わったとき。
  2. 君が礼を欠き、善意を持たずに仕えることができないと感じた場合。
  3. どうしても仕えていくことが耐えられず、自己の道徳に反する場合。

孟子は、君子が仕えるべきは、ただただ自分の利益を追い求める国君ではなく、誠意を持って接してくれる君主のもとでこそ、その徳を発揮し、国を治めることができると教えています。


原文と読み下し

陳子曰、古之君子、何如則仕、孟子曰、就三、去三。
之を迎うるに敬を致して、以て礼有り。言、将に其の言を行わんとすれば、則ち之に就く。礼貌未だ衰えざるも、言行わざれば、則ち之を去る。
其の次は、未だ其の言を行わずと雖も、之を迎うるに敬を致して、以て礼有れば、則ち之に就く。礼貌衰うれば、則ち之を去る。
其の下は、朝に食わず、夕に食わず、飢餓して門戸を出づること能わず。君之を聞きて曰く、吾れ大にしては其の道を行うこと能わず、又其の言に従うこと能わざるなり。我が土地に飢餓せしむるは、吾れ之を恥ず、と。之を周わば(※)、亦受くべきなり。死を免るるのみ。


※注:

  • 就三、去三:仕える場合が三つ、辞める場合が三つ。具体的には、君主が自分の意見を取り入れてくれる場合や、礼をもって迎え入れてくれる場合が仕える条件です。辞めるべき場合は、君主が態度を変えたり、礼を欠いた場合です。
  • 礼貌:礼儀正しい態度や気持ちのこと。
  • 周わば:救いの手を差し伸べてくれた場合、受け入れること。ただし、死を免れるために必要最低限だけ受け取るべきです。

パーマリンク案(英語スラッグ)

  • the-three-conditions-to-serve-and-leave(仕えるべき条件と辞めるべき条件)
  • virtue-in-leadership-and-servitude(リーダーシップと仕えることにおける徳)
  • good-servant-knows-when-to-leave(良い仕える者は辞める時を知っている)

この章では、孟子が君子が仕えるべき条件と、辞めるべき条件について教えています。善意をもって迎えてくれる君主に仕えることが重要であり、自己の道徳に反する場合や礼を欠いた君主に仕えることは避けるべきだと説いています。

目次

『孟子』―陳子問仕篇

1. 原文

陳子曰、古之君子、何如則仕、
孟子曰、就三、去三。
之致敬、以有禮、言將行其言也、則就之。
禮貌未衰、言弗行也、則去之。
其次、雖未行其言也、之致敬、以有禮、則就之。
禮貌衰、則去之。
其下、朝不食、夕不食、飢不能出門戶、
君聞之曰、吾大者不能行其道、又不能從其言也、使之飢於我土地、吾恥之。
周之亦可受也、免死而已矣。


2. 書き下し文

陳子曰く、古の君子は、如何なれば則ち仕うるか。
孟子曰く、就く所三、去る所三あり。
之に敬を致して礼あり、言がその言を行わんとするならば、これに就く。
礼貌未だ衰えざるも、その言行われざれば、これを去る。
次には、未だその言行われざるといえども、これに敬を致し、礼あれば、これに就く。
礼貌衰えれば、これを去る。
最も下は、朝に食わず、夕に食わず、飢えて門戸を出ること能わず。
君これを聞きて曰く、「我は大にしてその道を行うこと能わず、またその言に従うことも能わず。
わが土地に飢えさせることを恥とする」。
これを救うならば、これを受くるもまた可なり。死を免れるのみなり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 陳子が尋ねた。「昔の君子は、どのような条件で仕官したのか」。
  • 孟子は答えた。「仕える場合が三つ、辞する場合が三つある」。
  • 君主が礼を尽くして敬意をもって迎え、かつその言葉通りに行動しようとするなら、仕える。
  • たとえ礼儀が残っていても、実際に言葉を実行しなければ、仕えるべきではない。
  • 次の段階として、まだ行動に出ていなくても、礼を尽くして迎えるなら仕えてもよい。
  • だが、礼が失われれば去るべきである。
  • 最も低い場合は、朝も夕も食事にありつけず、飢えて門から出ることもできない状態。
  • 君主がそれを聞いて、「私はその道を実行することも、その言葉に従うこともできないが、自分の土地でこの人を飢えさせるのは恥ずかしい」と思う。
  • そのような場合は、与えられた救済を受けてもよい。それはただ死を免れるだけのことである。

4. 用語解説

用語解説
仕(つか)う君主に仕えること。官職につく意。
礼貌(れいぼう)礼儀と態度。社会的な応対の形式。
就三・去三仕える場合が3つ、辞する場合が3つあるという分類。孟子の仕官倫理を示す。
周之(しゅうこれ)周旋・救済する意。「援助する」という意味。
免死死亡を免れる。最低限の生存保障。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

陳子は、昔の君子がどのような条件で仕官したのか尋ねる。
孟子は「仕える場合が三つ、辞退する場合が三つある」と答える。

真に仕える価値があるのは、礼を尽くし、その言葉を実行しようとする君主
たとえ礼儀はあっても実行しなければ仕えるに値せず、
まだ行動していなくても礼があるなら仕えてもよい。
だが、礼がなければ、断るべきである。

極限の貧困状態で仕官を求めた場合でも、君主が「この人を餓死させるのは恥だ」と助けてくれるなら、
その救いを受けてもよい――それは死を免れるために過ぎないからである。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、孟子の仕官に対する道徳的基準を明確に示しています。

  • 利害ではなく、「道」と「礼」が基準
  • 言葉と行動が一致する誠実なリーダーにのみ仕える
  • 礼儀を失った権力には従わない

また、飢餓状態にある人が仕官を希望した場合でも、
それが「死を免れるため」であると理解する孟子の姿勢は、職業倫理と生存の境界線について深い洞察を与えます。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

❖ 「理念と実行の一致が、仕えるに値する条件」

  • 経営者や上司の理念だけでなく、その実践姿勢を見極めることが重要。
  • 言行不一致なリーダーに仕えることは、個人の志を損なう。

❖ 「職務選択における“礼”の価値」

  • 組織が人を迎える態度=“礼儀”は重要な判断材料。
  • スキル重視だけではなく、人を迎える姿勢・敬意の有無を見るべき。

❖ 「サバイバルと志の両立」

  • 社会的苦境にあっても、最低限の生活支援(=免死)と、
    志を曲げずに生き延びることのバランスは、ビジネスパーソンの矜持として参考になる。

8. ビジネス用の心得タイトル

「仕えるべきは、言と行が一致する者のみ──礼なき組織に仕えるな」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次