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自分のところだけがよければ良いという考えをしてはいけない

全体を考えた正しい治水を目指すこと

白圭は言った。
「私の治水は、伝説にある禹の治水よりも優れていると思います。」

孟子は答えました。
「そのような考え方は間違っています。禹の治水は、自然の流れを尊重し、水の流れに任せてうまく調整したものでした。禹は四方の海を水が流れ込む谷とし、自然に流れる水を適切に制御したのです。しかし、あなたの治水は、隣国を谷にして、そこに水を流し込む方法です。水が上流に向かって逆流するのは洚水(しょうすい)と言います。洚水とは洪水のことで、仁者が最も嫌うものです。あなたの治水方法は、自己中心的で、他を考慮していない間違った方法です。」

孟子は、白圭の治水法が一時的には成功するかもしれませんが、全体的な視点で見れば誤りであり、他者への配慮を欠いた方法であると厳しく批判しています。
正しい治水は、他国や全体の利益を考えた方法でなければならないと教えています。


原文と読み下し

曰、吾明吿子、天子之地方千里、不千里、不足以待諸侯、諸侯之地方百里、不百里、不足以守宗廟之典籍、
公之封於魯、為方百里也、地非不足、而儉於百里、太公之封於齊也、亦為方百里也、地非不足也、而儉於百里、
今、魯方百里者五、子以為、王者作、則魯在損乎、在益乎、徒取諸彼以與此、然且仁者不為、況於殺人以求之乎、
君子之事君也、務引其君、以當志於仁而已。


※注:

  • 洚水(しょうすい):水が逆流すること。ここでは洪水を指し、禹の治水法とは対照的に、白圭の治水法が引き起こす弊害として使われている。
  • 壑(こく):谷、水はけ場。水を流す場所を指すが、ここでは適切な場所を選ばず、隣国を谷としてしまうことを批判している。
  • 吾子(ごし):あなたを意味するが、ここでは白圭に対して親しみを込めて使っているのではなく、白圭の言うことが子どもじみていることを暗に指摘するために使っている。

パーマリンク案(英語スラッグ)

  • the-right-way-to-manage-water(水の管理の正しい方法)
  • thinking-beyond-your-own-interests(自分の利益を超えて考える)
  • true-water-management-is-holistic(真の治水は全体的な視点を持つ)

この章では、白圭の自己中心的な治水方法を批判し、孟子が自然の流れに従い、全体の利益を考えた治水が正しい方法であることを教えています。

目次

『孟子』公孫丑章句下より

1. 原文

曰、吾明告子、天子之地方千里、不千里、不足以待諸侯。
諸侯之地方百里、不百里、不足以守宗廟之典籍。

周公之封於魯、爲方百里也、地非不足、而儉於百里。
太公之封於齊也、亦爲方百里也、地非不足也、而儉於百里。

今、魯方百里者五、子以爲、王者作、則魯在於損乎、在於益乎。
徒取諸彼以與此、然且仁者不爲、況於殺人以求之乎。

君子之事君也、務引其君、以當道志於仁而已。


2. 書き下し文

曰く、吾れ明らかに子に告げん。天子の地方(ちほう)は方千里。
千里にあらざれば、もって諸侯を待つに足らず。

諸侯の地方は方百里。百里にあらざれば、もって宗廟(そうびょう)の典籍を守るに足らず。

周公が魯に封ぜられしときは、方百里なり。地、足らざるに非ずして、百里に倹(けん)せり。
太公が斉に封ぜられしときも、また方百里なり。地、足らざるに非ずして、百里に倹せり。

今や魯は、方百里の地を五つ有す。子これを以て思うに、王者の世が起これば、魯は損するに在らんや、益するに在らんや。

徒(いたずら)に彼よりこれを取って此に与うるすら、なお仁者は為さず。
いわんや人を殺して以て之を求むるをや。

君子の君に事(つか)うるや、務めて其の君を引いて、道に当たらせ仁に志さしむるのみ。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 「私はあなたにはっきり伝えよう。天子の支配地は千里四方でなければならない。そうでなければ、諸侯を受け入れる資格がない。」
  • 「諸侯の領地は百里四方でなければならない。それ以下では、先祖を祀る宗廟やその記録を守ることができない。」

  • 「周公が魯に封じられたときは、百里四方の土地だった。それは土地が不足していたのではなく、意図的に百里に抑えたのだ。」
  • 「太公が斉に封じられたときも同じで、百里四方。これもまた、土地が不足していたわけではない。」

  • 「ところが今の魯は、百里四方の土地を五つ分もっている。
    あなたはどう思うか?もし理想の王(王者)が現れたとしたら、魯は損をするだろうか、得をするだろうか。」

  • 「ただ他から土地を取って与えるだけでも、仁者はそれを行わない。
    ましてや、人を殺して土地を奪うことなど、なおさら仁者の道には反する。」

  • 「君子が君主に仕えるときは、その君主を正しい道に導き、仁に志すように努めるのみである。」

4. 用語解説

用語解説
地方千里・百里統治可能な範囲。天子は千里、諸侯は百里が基準とされる。
宗廟の典籍祖先を祀るための祭祀と、それに関わる記録や礼典。国家の根幹。
周公(しゅうこう)周の武王の弟。魯に封じられた。
太公(たいこう)呂尚。斉に封じられた。軍略と政治に長けた賢臣。
倹(けん)意図して抑えること、謙虚・節制の意。
仁者(じんしゃ)他者を思いやり、道徳にかなった行動をする人。
事君(しくん)君主に仕えること。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孟子は語る──

本来、天子が統治すべき地は千里四方。諸侯なら百里四方。これはそれぞれが果たすべき役割と責任に応じた基準である。
かつて、周公や太公といった偉大な功臣たちが封じられたときも、王朝には広大な土地があったにも関わらず、彼らに与えたのは百里に抑えられた領地だった。

その背景には、節度と道義に則った封建政治の美徳があった。

それに比べて今、魯の国が百里を五つも所有していることは、明らかに不当な拡張であり、王道の政治に反する。

たとえ、他国から土地を譲られるとしても、それを仁者は良しとしない。
ましてや、人を殺して得る土地など、論外である

真の君子(知識人・補佐役)とは、君主を導き、仁道に志向させる者なのである。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、以下のような現代的教訓を含んでいます:

  • 権限や報酬は“必要十分”であってこそ正当である
    • 周公や太公のような偉大な功績者でさえ、節度ある処遇を受けた。
    • 必要以上に得ること、ましてや不正に得ることは「仁」の道に反する。
  • 仁にかなった行為は、結果だけでなく“手段”の正しさを問う
    • 正当な手続きを踏まない拡張・収益・評価は、根本的に破綻する。
    • 誠実なプロセスによって得られるものでなければ、持続的価値は生まれない。
  • リーダーに仕える者は“イエスマン”であってはならない
    • 真の補佐役・右腕とは、上司を「仁の道」に導ける人である。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

❖「リソース(予算・権限)は適正に分配せよ」

企業内での役職や予算配分においても、“与えすぎ”は腐敗を招き、組織を壊す
節度ある支給と統治の範囲は、組織健全性の根幹。

❖「成功しても“手段”が不正なら、それは失敗」

営業成果や利益拡大を重視するあまり、不正・過剰請求・ブラック労働に頼るのは「殺人して求めるに等しい」道。

❖「リーダーの補佐役は、“諫言する勇気”を持て」

君子=補佐役は、リーダーの欲や野心を助長する存在ではない。
仁義・道理に導く知見と信念が必要


8. ビジネス用心得タイトル:

「与えすぎは腐敗を生む──仁と節度が正しき拡張を支える」


この章句は、組織の健全な拡張、リーダーシップの節度、倫理的な判断基準に対する示唆に富んでいます。

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