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■引用原文(日本語訳)
第一〇章 暴力(ダンダヴァッガ)第134偈
こわれた鐘のように、声をあららげないならば、
汝は安らぎに達している。
汝はもはや怒り罵ることがないからである。
(『ダンマパダ』第134偈)
■逐語訳
- こわれた鐘のように:鳴らなくなった鐘のように、静かで騒がしくないこと。
- 声をあららげないならば:怒りのままに叫んだり、激しい口調にならない態度。
- 安らぎに達している(ニッバーナン・パッタ):煩悩を離れ、心が平静に落ち着いた境地=涅槃に至ること。
- 怒り罵ることがないからである:怒りや攻撃の言葉を発さない、つまり内面に怒りを持たない状態にある。
■用語解説
- こわれた鐘(クンビーラ・ガンタ):もはや音を発しない鐘のたとえは、感情的な反応から解放された者の姿を象徴する。
- 声をあららげる(ナ・バルティ):声を荒げて感情を外にぶつけること。怒り、嘆き、罵倒などが含まれる。
- 安らぎ(ニッバーナ/涅槃):仏教での究極の目的。苦しみ・煩悩・怒りなどを滅した静かな心の境地。
■全体の現代語訳(まとめ)
壊れた鐘が音を立てないように、もしあなたが声を荒らげず、静かな態度を保てるならば、あなたは真の安らぎに達している。なぜなら、そこにはもう怒りも罵りもないからである。
■解釈と現代的意義
この偈は、沈黙の尊さと、怒りの克服こそが真の平和への道であることを教えています。
私たちは日常で怒りや苛立ちに反応してしまいがちですが、そこには「心の奴隷」となった自分の姿があります。
ブッダはここで「何も言わないこと」が美徳なのではなく、怒りが消え去り、静けさが自然に現れてくる状態こそが、最も高貴な精神の証であると説いています。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
リーダーの安定感 | トラブルやプレッシャーの場面で取り乱さず、落ち着いて対応できる人は周囲に安心感を与え、信頼される。 |
感情管理の成熟 | 怒りをぶつけるのではなく、沈黙と観察によって冷静に判断することが、対話や交渉での成果につながる。 |
組織文化の質の向上 | 声を荒げるリーダーがいない職場は、心理的安全性が高く、創造性や連携が生まれやすい。 |
■心得まとめ
「沈黙は、怒りの克服から生まれる智慧である」
この偈は、「黙っている者が弱いのではなく、怒りを超えた者こそが最も強い」ということを教えています。
内なる静けさは、外に現れる「声の静けさ」となり、他者にも安らぎを与えます。
現代のビジネスでは、即応力やアピール力が重視されがちですが、
本当に信頼される人とは、怒りに支配されず、沈黙の中に智慧を宿す人です。
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