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減らすことで極まる──“無為”の力が組織を動かす

目次

『老子』第四十八章「知」


1. 原文

爲學日益、爲道日損。
損之又損、以至於無爲。
無爲而無不爲。
取天下常以無事。
及其有事、不足以取天下。


2. 書き下し文

学を為(な)せば日に益(ま)し、道を為せば日に損(そん)す。
これを損し、また損し、以(もっ)て無為(むい)に至る。
無為にして、而(しか)も為さざる無し。
天下を取るは、常に無事を以てす。
其の事有るに及べば、以て天下を取るに足らず。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)

  • 「学を為せば日に益し」
     → 学問をするとは、日に日に知識を増やしていくことだ。
  • 「道を為せば日に損す」
     → しかし道を実践するとは、日に日に余計なものを削ぎ落としていくことだ。
  • 「これを損しまた損し、以て無為に至る」
     → そしてさらに削ぎ、ついには“何もしない”という無為の境地に至る。
  • 「無為にして、而も為さざる無し」
     → 無為であっても、実際には何も為されないことはない(=無為が万事を成す)。
  • 「天下を取るは、常に無事を以てす」
     → 天下を治めるには、事を構えず、自然体で臨むべきである。
  • 「其の事有るに及べば、以て天下を取るに足らず」
     → 事を起こしてしまうと(過干渉すると)、天下は掌握できなくなる。

4. 用語解説

  • 為学(いがく):学問やスキルの習得。知識を増やす行為。
  • 為道(いどう):道(タオ)の実践。自然と調和する生き方を体得すること。
  • 損(そん):引き算。手放し、削ぎ落とすこと。
  • 無為(むい):何もしないこと、作為のない自然な状態。
  • 無事(ぶじ):特別なことをしない、争わない、静かなあり方。
  • 取天下(しゅてんか):天下(国家・組織・人心)を治めること、掌握すること。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

学問とは知識を増やすことであり、
道を実践するとは、むしろ知識やこだわりを減らしていくことだ。
さらに手放していくことで、ついには“無為”──なにもしない境地に至る。
だがその無為の状態こそが、最も多くのことを成し遂げる。

天下(世の中・組織)を治めるには、事を構えず自然に任せるべきで、
事を起こしてしまえば、かえって天下は得られない。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「知識と実践」「学ぶことと手放すこと」の違い、
そして
「無為自然による統治・マネジメント」**の重要性を説いています。

老子は、

  • **知識を増やす学び(加算)**は重要だが、
  • **本質を掴むには手放し(減算)**が必要だと強調します。

これは、“知っている”ことより“何を捨てるか”が、より重要な局面があるという老子の核心思想です。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

●「爲學日益」= 知識を積み上げるフェーズ

→ 新人教育や専門スキル習得期は“学びの加算”が必要。

●「爲道日損」= 成熟に向けた“引き算の知恵”

→ 中堅・幹部になるほど、“やらないことを決める”“口出ししない”など、知恵と経験の手放しが求められる。

●「無為而無不為」= 何もしない中に最大の力

→ 優れたマネジメントとは、介入せずとも回る体制を整えること。
→ 無為とは怠慢ではなく、“仕組みと信頼で成す”こと。

●「無事で天下を取る」= 過剰な管理は組織を壊す

→ マイクロマネジメント、頻繁な制度変更、成果主義の過熱は、“天下を失う”原因に。
→ “静かに構える経営”が持続力を生む。


「減らすことで極まる──“無為”の力が組織を動かす」8. ビジネス用の心得タイトル付き


この章は、知識偏重・介入過多の現代ビジネスへの静かなアンチテーゼであり、
成し遂げたいなら、手を放せ」という逆説的なリーダー哲学を教えてくれます。

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