■ 引用原文(日本語訳)
一つは現世に関することがらであり、
他の一つは来世に関することがらである。
思慮ある人は、事がらを見きわめてさとるから、
〈賢明な人〉と呼ばれるのである。
――『ダンマパダ』第四章「はげみ」第26節
■ 逐語訳(一文ずつ現代語訳)
- 一つは、この現実の世界における務めや行動に関するものであり、
現実的な責任、社会で果たすべき役割のことを指す。 - もう一つは、死後の世界(来世)や精神的報いに関するものである。
霊的修行やカルマ、魂の成熟といった、超越的な視点。 - この両面を的確に見きわめ、理解できる者こそ、
短期的利益と永続的価値をともに見通せる者こそが、 - 「賢者」「智者」と呼ばれるにふさわしい。
■ 用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
現世(イハローカ) | 現在の生の世界。社会生活や日々の行動に関わる領域。 |
来世(パローローカ) | 死後の世界。仏教では輪廻・再生・解脱の次元を含む。 |
事がらを見きわめる(ヨーニソ・マナシカーラ) | 深く本質を見抜く思考力・内観。 |
賢明な人(パンディタ) | 現実と真理の両方に通じた知者。仏教では徳と智慧を兼ね備えた実践者。 |
■ 全体の現代語訳(まとめ)
人生には、現実の社会生活(現世)と、精神的な修行・死後の運命(来世)の二つの課題がある。
賢明な人とは、この両者を正しく理解し、それぞれにふさわしい生き方を実践する者のことをいう。
「今、ここ」を大切にしながらも、「永遠」や「超越」も見据える視野を持つ者こそ、真に智恵ある人である。
■ 解釈と現代的意義
この節は、**「バランスある生き方こそが智慧である」**という仏教的倫理観を明確に示しています。
現代でも、「今を楽しむ」か「将来に備える」かで揺れ動く人生観がありますが、
仏教の答えはそのどちらかに偏るのではなく、両者の調和こそが智者の道だと説きます。
日常の責務や人間関係を果たしつつも、精神的価値や永続的な目標を忘れない――
そのような生き方が、幸福と解放の両方を手にする道です。
■ ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
短期と長期のバランス | 目先の売上と、長期的な信頼・ブランド価値を両立させる意思決定が重要。 |
実務と理念の統合 | 現場での成果(現世)と、企業理念・文化(来世的価値)の両立が、組織を強くする。 |
戦略的思考 | いま行っていることが、将来どういう果報をもたらすかを見据える力。 |
自己成長と貢献 | スキルや収入だけでなく、人間性・信念の育成にも目を向ける生き方。 |
■ 心得まとめ
「賢き者は、今と永遠の両方を見据える」
日々の仕事や責任を果たす中でも、
「これが人生をどう高めるか」という視点を忘れてはならない。
現実の中に精神を見、目の前の行為のなかに永遠の意味を見いだすこと――
それが、ブレない人生を築く本当の智恵なのです。
『ダンマパダ』第四章「はげみ」の最終節にふさわしく、
この第二十六節は「努力の方向」と「生き方の本質」を見定める智慧を教えてくれます。
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