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家庭で実践できぬ徳に、組織は従わぬ


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■引用原文(書き下し文付き)

原文:
所謂治国必先斉其家者、其家不可教、而能教人者、無之。
故君子不出家、而成教於国。
孝者所以事君也、弟者所以事長也、慈者所以使衆也。
康誥曰、如保赤子。心誠求之、雖不中不遠矣。未有学養子而后嫁者也。
一家仁、一国興仁。一家譲、一国興譲。一人貪戻、一国作乱。其機如此。
此謂一言事、一人定国。
尭舜率天下以仁、而民従之。桀紂率天下以暴、而民従之。
其所令反其所好、而民不従。
是故君子有諸己、而后求諸人。無諸己、而后非諸人。
所蔵乎身不恕、而能喩諸人者、未之有也。
故治国在斉其家。

書き下し文:
いわゆる「国を治めるには、まず家を斉えることが必要である」とは、
家族にすら徳を伝えられない者が、他人を教え導くことなどできないからである。
だから、君子は家から一歩も出ずとも、その徳が国じゅうに影響する。
親への孝行は主君への忠義となり、兄への従順は上司への敬意となり、子への慈しみは部下への思いやりとなる。
『康誥』には「赤子を保つがごとくあれ」と言われている。
心をこめて人を思えば、たとえ的中しなくとも、大きく外れることはない。
子を育てる方法を学んでから嫁ぐ人はいない。それと同じく、人を導くにあたり、特別な理屈は必要ない。
一家に仁があれば、一国に仁が広がる。一家に譲(謙虚)があれば、一国に譲が広がる。
逆に、一人に貪欲と乱行があれば、一国は混乱する。それほど影響力の根は深い。
「一言が事を壊し、一人が国を定める」と言われるゆえんである。
尭・舜は仁をもって天下を治め、民もそれに従った。
桀・紂は暴をもって治め、民もそれに染まった。
もし命令が君主の本心と逆であれば、民は従わない。
だから君子は、まず自ら徳を備えた後に人に求め、自ら不徳を無くしてから人を責める。
身に恕(おもいやり)をもたずして、他人を納得させた者など存在しない。
よって、国を治めるには、まず家庭を斉えることが肝要である。

(『礼記』大学 第五章)


■逐語訳(一文ずつ)

  1. 国を治めるためには、まず家庭を正しくすることが必要である。
  2. 家族にすら徳を伝えられない者が、外の人を導くことはできない。
  3. 君子は家から出ずとも、その徳が社会に影響を与える。
  4. 親への孝は主君への忠に通じ、兄弟への敬意は目上への礼に通じ、
  5. 子への慈愛は、部下や民衆への優しさとなる。
  6. 民を導くには、赤子を抱くように真心を持って接するべきだ。
  7. 真心を持って求めれば、多少外れても大きな誤りにはならない。
  8. 子育ての理論を学んでから結婚する者などいない。愛があれば自然と導けるのだ。
  9. 一家の仁が一国の仁を興し、一家の謙譲が一国の謙譲を導く。
  10. 逆に一人の貪欲が国を乱す。その始まりは小さくても影響は甚大である。
  11. 一言が国を乱し、一人が国を立てると言われる理由である。
  12. 尭・舜は仁により民を導き、民はその徳に従った。
  13. 桀・紂は暴により導き、民もそれに従った。
  14. 命令がその人の本心と矛盾すれば、人々は従わない。
  15. 君子はまず自分に徳を備え、そのうえで人に求め、
  16. 自分の欠点をなくしてから他人を責める。
  17. 思いやりのない者が、他人を説得できたためしはない。
  18. ゆえに、国を治めるには、まず家庭を整えることが基本である。

■用語解説

  • 斉家(せいか):家庭内における秩序と徳の実践。儒教では国家の縮図とされる。
  • 仁・譲:思いやり・謙虚。家庭において基本とされ、社会の徳の原点とされる。
  • 貪戻(たんれい):貪欲で道を外れた振る舞い。
  • 率天下:上に立つ者が徳をもって統率すること。
  • 恕(じょ):相手の立場に立って思いやること。「己の欲せざる所、人に施すことなかれ」の核心概念。

■全体の現代語訳(まとめ)

国家や組織のリーダーシップの根源は、家庭という最も近い人間関係の中で培われる。家庭においてすら誠意をもって人と接することができない者が、社会に正義や徳を説いても、誰もそれに従うことはない。

孝・弟・慈という身近な徳目が、そのまま忠誠・礼儀・信義に昇華されることで、広く社会に調和をもたらす。その出発点が、自分の内面と家庭である。


■解釈と現代的意義

この章は、個人の内面(修身)と家庭(斉家)を経て、社会(治国)へと広がる徳の影響力を説いています。特に、「家における実践がなければ、社会的発言に説得力はない」という原理は、現代のあらゆるリーダーにとって重要な教訓です。

ビジョン・スローガン・倫理規定がどれほど立派でも、トップや家庭の実践がともなわなければ、組織の文化にはならず、形骸化するだけです。


■ビジネスにおける解釈と適用

観点適用例
経営者の徳と社風社長が家庭で不誠実なら、その空気は組織にも波及する。誠実さ・思いやり・責任感などの「家庭内リーダーシップ」が、組織文化の源泉。
人事とリーダー選抜チームや部下との接し方を見ることで、その人の上司としての資質が測れる。まず「家のような関係」をどう築くかが重要。
リーダーシップ研修「徳」の修養を感情論や理想論で終わらせず、「家庭でのふるまい」に立ち返るワークが効果的。
ブランドと一貫性外に出すメッセージ(広告・社外PR)と、内でのふるまい(社員対応・家庭)にズレがある企業は、信頼を失う。

■心得まとめ(ビジネス指針)

「家庭で偽る者に、社会は従わぬ」

本当のリーダーシップとは、家庭でこそ発揮されている。内なる誠と近き者への徳こそが、外の世界を動かす力となる。

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