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■引用原文(『中庸』第九章・後半)
斉明盛服、非礼不動、所以脩身也。去讒遠色、賤貨而貴徳、所以勧賢也。尊其位重其禄、同其好悪、所以勧親親也。官盛任使、所以勧大臣也。忠信重禄、所以勧士也。時使薄斂、所以勧百姓也。日省月試、既稟称事、所以勧百工也。送往迎来、嘉善而矜不能、所以柔遠人也。継絶世、挙廃国、治乱持危、朝聘以時、厚往而薄来、所以懐諸侯也。凡為天下国家、有九経、所以行之者一也。
■逐語訳
- 非礼不動:礼に反する行動は決して取らないこと。それが身を修める要。
- 讒を去り色を遠ざけ、貨を賤しみ徳を貴ぶ:おべっかや色欲を避け、財より徳を重んじる。それが賢人を励ます道。
- 尊其位、重其禄、同其好悪:親族に対して、地位や禄を重んじ、喜怒哀楽を共有する。それが親族の信頼を育てる。
- 官盛任使:官職を整えて、大臣に人事権を任せる。それが忠臣を奮起させる。
- 忠信重禄:忠誠に応じて報酬を与える。これが士人を励ます。
- 時使薄斂:農民の労役は農閑期に限り、税は軽く。これが民を養う。
- 日省月試、既稟称事:工人の働きぶりは日々点検・月ごとに査定し、実績に応じて扶持を与える。これが職人の意欲を高める。
- 送往迎来、嘉善而矜不能:外国人には往くときも来るときも礼を尽くし、善人は讃え、劣る者はいたわる。これが異国を和らげる。
- 継絶世、挙廃国、治乱持危、朝聘以時、厚往而薄来:世継ぎのない国には後継者を与え、滅びた国は復興し、乱れた国は整え、傾いた国は支え、外交儀礼は定時に、こちらからの賜与は厚く、貢ぎ物は軽く。それが諸侯を懐ける。
■用語解説
用語 | 意味 |
---|---|
非礼不動 | 礼にかなわぬことは行わないという自律の姿勢。 |
讒・色 | ごますり・異性誘惑。人の判断を誤らせる代表格。 |
任使 | 大臣に人事と采配を任せる。トップが現場に介入しすぎない統治法。 |
日省月試 | 業務の定期的な見直し。評価制度のはしり。 |
送往迎来 | 外交における丁寧な出迎えと見送り。 |
厚往薄来 | 自国からの与え物は厚く、相手国には負担をかけない配慮。 |
一なり | この九経を貫く実践の根は「誠」や「徳」であるという意味合い。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
九経の実践方法は以下の通りである:
- 身を修めるには、心身を清め、礼に適った行動を貫くこと。
- 賢者を励ますには、ごまかしや色欲を避け、財よりも徳を評価すること。
- 親族を励ますには、地位や俸禄で誠意を示し、気持ちを共有すること。
- 大臣を励ますには、適切な官職と人事権を与えること。
- 士人を励ますには、誠実さと働きに報いる俸禄を与えること。
- 民を励ますには、労役の時期を選び、税を軽くすること。
- 職人を励ますには、仕事ぶりを点検し、働きに応じた支援を与えること。
- 遠人を和らげるには、丁重な応対と、能力に応じた扱いをすること。
- 諸侯を懐けるには、国の再建や支援を惜しまず、外交儀礼を誠実に守ること。
これら九つの道を実践するための根本はただ一つ――それは、誠意をもって人と接することに他ならない。
■解釈と現代的意義
この章は、統治の原則において「礼と誠」がいかに具体的な行動に落とし込まれていくかを明らかにします。単なる理念ではなく、制度や習慣に反映された実務の道です。
- 身分や職能に応じた配慮(上から下まで含む)
- 人事・報酬・制度設計の原理(今の人事評価制度の源)
- 内政・外政に共通する「敬と信」
- **上に立つ者が「先に与え、誠意で導く」**というリーダーシップ
■ビジネスにおける解釈と適用
項目 | 解釈・適用例 |
---|---|
リーダーの行動規範 | 礼儀・身だしなみ・規範を守ることで、信頼の礎を築く。 |
人材育成と評価 | 優秀な人材には財よりも信頼・理念共有を通して励ます。 |
権限委譲 | 幹部に適切な裁量を与え、過干渉を避ける。 |
フェアな査定 | 工程ごとの実績評価と報酬の対応づけが職人魂を刺激。 |
対外交渉 | 先に与えて信頼を築き、持続可能なパートナーシップへ。 |
事業承継・事後対応 | 後継ぎ・買収企業・救済支援に対する誠実さと継続の視点。 |
■心得まとめ
「誠をもって九道を貫けば、天下をも和す」
一つひとつの道――身を修め、賢を励まし、民を養い、他国と調和する。
これらの実行はすべて「誠」という一本の糸でつながっている。
誠実な態度と、礼を守る行いによって、組織も社会も国も、自然と敬意と秩序を育むのである。
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