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📜 引用原文
第一四章 憎しみ 一〇
「『かれは、われを罵った。かれは、われにこんなことを言った。
かれは、われにうち勝った。人をしてわれに打ち勝たしめた。』
という思いをいだかない人々には、ついに怨みが息む。」
— 『ダンマパダ』
🔍 逐語訳
「あの人は私を罵った」
「ひどいことを言った」
「私に勝った」
「他の人を使って私を負かした」
――こうした思いを心に抱かない人々には、
怨みの心はついに鎮まり、
怒りの火は静かに消えていく。
🧩 用語解説
- 思いをいだかない:出来事に対する執着や感情を反復しない心の状態。仏教においては「無執着」「無我」に通じる。
- ついに怨みが息む:「息む(やむ)」とは、怒りや怨念が静まり、完全に消えること。平安の回復。
- 罵られた・言われた・打ち勝たれた:他者からの攻撃・侮辱・敗北体験など、傷つけられたと感じる出来事。
🧾 全体の現代語訳(まとめ)
「あの人は私にこんなことをした」「私を打ち負かした」――
そうした思いを抱かない人には、
怒りも、恨みも、やがて完全に消えていく。
他者に対する憎しみは、出来事ではなくそれを抱き続ける思いによって生まれ、
思いを手放したとき、心はようやく自由になる。
🧠 解釈と現代的意義
前節(第9節)との対句として、この10節は「怨みが止む方法」を明示しています。
つまり、「怒りの感情は、外からではなく内側の思いから生じている」と気づくことが出発点です。
現代では「自己肯定感を傷つけられた」と感じることで、
怒りや恨みを反復的に抱く傾向がありますが、
それにとらわれない心――すなわち「流す」「赦す」「忘れる」力を持てる人は、
どんな出来事にも怨まずに平安を保てるのです。
💼 ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 実務での活用例 |
---|---|
感情のセルフマネジメント | 指摘・批判を受けたとき、「何を言われたか」ではなく「どう受け取るか」で心の在り方が決まる。 |
建設的フィードバック文化 | 他人の言動を繰り返し思い返して怒るよりも、「今、自分がどうしたいか」に意識を向けることが建設的な行動につながる。 |
リーダーシップ | 侮辱や反発を受けても、それを引きずらず穏やかに対処できるリーダーは、組織の安心感の核になる。 |
人間関係の修復 | 対人関係の摩擦で「もうあの人とは無理」となる前に、感情の引きずりを手放すことで再び協調関係を築ける可能性が開ける。 |
🧭 心得まとめ
「怒りは思いに生まれ、沈黙によって終わる」
「抱かなければ、憎しみはやがて消えてゆく」
他人の言動に心を乱されるのではなく、
**その出来事をどれだけ「自分の中に留めないか」**が、
心の安らぎの分かれ道となります。
仏陀は教えます――
「赦す」という行為は、相手のためではなく、自分の自由のためにあるのだと。
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