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■引用原文(日本語訳)
飢えは最大の病いであり、形成せられた存在(=わが身)は最もひどい苦しみである。
このことわりをあるがままに知ったならば、ニルヴァーナという最上の楽しみがある。
― 『ダンマパダ』 第十五章「楽しみ」 第203偈
■逐語訳
- 飢えは最大の病いである:肉体的な飢餓だけでなく、心の飢え――欲求・不足感――もまた、人を蝕む最大の病である。
- 形成せられた存在(=わが身)は最もひどい苦しみである:この五蘊(身体と精神)が構成する「我が身」こそが、無常・苦・無我の実体として、あらゆる苦しみの根源である。
- このことわりをあるがままに知ったならば:苦の本質と真理(ダルマ)を、執着を交えず正しく理解したとき、
- ニルヴァーナという最上の楽しみがある:煩悩を離れた安らぎ(涅槃)こそが、究極の平安と喜びである。
■用語解説
- 飢え(ジャラー):欲望や欠乏感、肉体的・精神的な飢え。仏教では欲望そのものが「苦」の起点とされる。
- 形成せられた存在(サンカーラ/五蘊):色(身体)・受・想・行・識の五つの構成要素からなる人間の存在。無常かつ苦しみに満ちるとされる。
- ことわり(法/ダルマ):存在の真理。すべては無常・苦・無我であるという仏教の根本教理。
- ニルヴァーナ(涅槃):煩悩と苦しみの終焉。完全なる自由と平安の境地。
■全体現代語訳(まとめ)
飢え――それは、最大の苦しみであり、肉体だけでなく心をも蝕む。
そしてこの「我が身」自体が、老い・病・死を免れない苦の構造である。
もしその真理をありのままに見つめ、悟ったならば、
そこにはあらゆる喜びを超えた「涅槃」という至高の安らぎが待っている。
■解釈と現代的意義
この偈は、現代人が無意識に追い求める「もっと得たい」「もっと良くなりたい」という飢えの心理を見抜き、それが苦しみの根源であることを示しています。
さらに、「わが身」そのもの――つまり存在自体が無常である以上、そこに絶対的な安心や満足を求めることは誤りであると教えています。
それらに気づき、「求めることをやめる」ことで初めて、私たちは真の平穏(涅槃)を知ることができるのです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈・応用例 |
---|---|
欲望と持続可能性 | 成長・拡大・成功への「飢え」が止まらなければ、組織も人も燃え尽きる。ほどよい満足と手放しが安定を生む。 |
自己理解と謙虚さ | 「私はこうあるべき」「成功して当然」という幻想に囚われず、自分の限界を受け入れることが、成長の入口となる。 |
メンタルウェルビーイング | 絶え間ない目標追求が「慢性的な飢え」を生む。それを自覚し、内的平和を重視することが、パフォーマンスの質を高める。 |
経営理念と価値軸 | 利益至上主義ではなく、「心の安らぎ」「働く意味」を中心に据える企業文化が、長期的な信頼を築く。 |
■心得まとめ(ビジネス視点)
「飢えと執着を離れてこそ、本当の充実が訪れる」
満たされない欲求に駆られ、常に「足りない」と感じる――その状態が最大の病であると、ブッダは喝破します。
その根源が「私」への執着であることを見抜いたとき、静かで安らかな人生と仕事が始まります。
涅槃とは逃避ではなく、「心を整え、欲に翻弄されずに生きる力」であり、現代に生きる私たちにとって最も深い喜びの形なのです。
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