価格設定の基本原則:価値と「はたらき」を基準に
商品の価格は単に製造原価から計算されるものではなく、その商品が顧客に提供する「はたらき」や価値を基準に設定されるべきだ。これは、顧客が得られる具体的なメリットやコスト削減効果、そして市場における競争力を考慮した上で導き出される価格設定の本質だ。
ケーススタディ:ペーパーキャッチャー
背景
「ペーパーキャッチャー」は新聞にチラシ広告を挟み込む機械で、従来5人で行っていた作業を2人で済ませることができるという大きな効率化を実現する。しかし、当初の価格設定は製造原価の倍である6万円という単純なもので、商品の価値や「はたらき」が十分に反映されていなかった。
課題
- 製造原価に基づく価格設定のみで、物流費やアフターサービスなどを考慮していなかった。
- 商品がもたらすコスト削減効果に比べて、価格が低すぎるため、利益を十分に確保できない。
価格再考のポイント
- コスト削減効果の評価
- 機械を導入することで1日あたり3人分の賃金を節約(約3,000円/日)できる。
- 6万円の価格では、ユーザーは20日間で機械代を回収でき、これは短すぎる償却期間となる。
- 一般的に、機械の償却期間は1〜2年が妥当とされる。
- 価格設定の適正化
- コスト削減効果に基づく価値を反映すると、価格は約200万円が適切。
- ユーザーの負担感を考慮し、償却期間を6か月に設定すると、価格は50万円程度が妥当となる。
- 市場価値と販売モデルの調整
- 流通業者を通した場合でも十分なマージンを確保できる価格設定が必要。
- アフターサービスや保守体制のコストも考慮する。
成功例:K社の新型選別機
背景
K社は特性値のばらつきを解消するため、新型選別機(価格:300万円)の導入を検討。現在の機械の価格が100万円であるため、価格差に疑問を抱いたが、以下の説明に納得し購入を決断した。
販売側の説明
- コスト削減効果の一部を価格に反映
新型選別機の導入で大幅な経費節約が可能。その節約額の一部(200万円)を「アイデア料」として価格に加算。 - 次世代製品への投資
高い価格設定は、顧客に提供したメリットを元手にさらなる研究開発を進め、新たな商品を提供するための原資とする意図がある。
結果
- 顧客であるK社は、この価格設定が「価値」と「信頼」に基づくものであることを理解し購入を決断。
- 価格設定は単なるコスト計算ではなく、顧客との長期的な信頼構築を重視したものだった。
適正価格設定のポイント
1. 価値ベースの価格設定
商品の価格は、顧客が得られる具体的なメリット(コスト削減、効率化、品質向上など)に基づいて設定されるべきだ。
- 例:ペーパーキャッチャー
- 賃金節約効果から価格を50万円〜200万円に再設定。
- 例:新型選別機
- 顧客の経費削減効果を反映し300万円を設定。
2. コスト要因の全体的な考慮
物流費、据え付け作業、アフターサービス、技術指導、パーツ供給など、製造原価以外のコストも価格に反映する。
3. ユーザー視点での投資対効果
ユーザーが価格に見合う効果を得られるよう、償却期間や導入後のメリットを明確化。
4. 市場環境の調整
市場相場や競合商品とのバランスを取りながら、価値を反映した価格を設定する。
5. 販売モデルの考慮
流通業者を通じて販売する場合は、適切なマージンを設定し、彼らの利益も確保する。
「暴利」と「適正価格」の違い
適正価格とは、ユーザーが得られる価値に基づいて設定されるものであり、単なる原価の積み上げではない。このため、高価格であっても次の条件を満たす場合、それは暴利ではなく合理的な価格設定といえる:
- ユーザーに明確なメリットを提供
価格以上のコスト削減や効率化が実現する。 - 開発コストや将来の投資を反映
商品に込められた技術力や次世代製品への投資が考慮されている。 - 販売者とユーザーの双方が利益を得る
流通業者、メーカー、ユーザーがそれぞれ適切な利益を享受できる仕組みを持つ。
結論:価値ベースの価格設定が生む信頼と成長
商品価格は、原価ではなく顧客に提供する価値や市場での「はたらき」に基づいて設定されるべきだ。適正な価格設定によって、次の効果が期待できる:
- 顧客の満足度向上
価格に見合ったメリットを得られることで、信頼関係が構築される。 - メーカーの持続的な収益
適切な利益を確保し、次世代製品への投資が可能になる。 - 市場での競争力強化
価値に基づいた価格が、競合との差別化を生む。
「ペーパーキャッチャー」のような製品であれば、単なる原価計算ではなく、コスト削減効果や顧客満足度を基準とした価格設定が、メーカーの成長と顧客の利益を両立させる鍵となる。このアプローチを採用することで、製品そのものの価値だけでなく、ビジネス全体の信頼性を高めることができる。
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