■引用原文(『中庸』第八章)
天下之達道五、所以行之者三。曰、君臣也、父子也、夫婦也、昆弟也、朋友之交也。五者天下之達道也。
知仁勇三者、天下之達徳也。
所以行之者、一也。或生而知之、或学而知之、或困而知之、及其知之、一也。或安而行之、或利而行之、或勉強而行之、及其成功、一也。
子曰、好学近乎知、力行近乎仁、知恥近乎勇。知斯三者、則知所以脩身。
知所以脩身、則知所以治人。知所以治人、則知所以治天下国家矣。
■逐語訳
- 天下の達道五:世界中で通用する基本的な道理は五つある。
- 君臣・父子・夫婦・昆弟・朋友の交:君主と臣下、父と子、夫と妻、兄弟、友人――これが五倫である。
- 知・仁・勇:知恵・思いやり・勇気の三つは、普遍的な徳(人の基本的資質)である。
- 或生而知之…一也:知るまでの経路は違っても、知った段階では皆同じ。
- 或安而行之…一也:行動のきっかけは違っても、成果が出れば皆同じ。
- 好学近乎知、力行近乎仁、知恥近乎勇:学を好むのは「知」、努力して行動するのは「仁」、恥を知るのは「勇」に近づく。
- 知斯三者、則知所以脩身:この三つを知れば、修身の方法がわかる。
- 修身→治人→治天下国家:自分を修めることができれば、人を治め、国家・天下の統治にも通じる。
■用語解説
- 五倫(ごりん):儒教における五大人間関係(君臣、父子、夫婦、兄弟、朋友)。社会秩序の基礎。
- 三達徳(さんたつとく):知・仁・勇。人間の徳を知性・感情・意志の三方面から分類。
- 知斯三者(この三つを知る):知・仁・勇の三徳を体得すること。
- 安行・利行・勉行:自然体で行う・目的意識で行う・努力で行うという行動パターン。
- 修身・治人・治天下:儒教の基本命題「修身斉家治国平天下」の根幹。
■全体の現代語訳(まとめ)
世界に共通する正しい道は五つ――君と臣、父と子、夫と妻、兄弟、そして友人との関係である。これらが人間社会の基本であり、あらゆる行動の土台となる。
そして、それを実践していくための徳として、知(知恵)・仁(思いやり)・勇(実行力)の三つがある。
生まれながらにこれらを知る人もいれば、学びによって知る人、苦難の中で得る人もいるが、知ってしまえば同じことである。
また、実践の仕方も、自然に行う人、利益を見込んで行う人、努力して行う人と違いがあるが、成功すればそれもまた同じことである。
孔子は言う――
「学ぶことを好めば知に近づき、努力して行えば仁に近づき、恥を知る心があれば勇に近づく。
この三つを理解すれば、自分をどう修めるかがわかる。
自分を修める方法がわかれば、他人の治め方もわかり、ひいては国家や天下の治め方もわかるだろう」と。
■解釈と現代的意義
この章は、儒教思想の柱となる「人間関係・人間力・政治の道」を簡潔に要約した名文です。
- 五倫=社会の根幹:どれも現代に通用する人間関係の基本。「仕事と上司部下」「家庭」「兄弟」「友人」と変換可能。
- 三徳=人格力の構成要素:知性・感情・行動の統合が成熟した人間を形成する。
- 知行合一と多様性の認知:出発点は違っても「知ること・行うこと」においては最終的な価値は平等であるという思想。
- 修身から政治までの一貫性:個人の徳を積むことが社会の秩序と平和に直接つながる。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈・適用例 |
---|---|
リーダー育成 | **知(学ぶ力)・仁(共感力)・勇(行動力)**の三徳を備えた人物が組織を導く。 |
組織文化 | 上司と部下・同僚・親族・顧客などの関係性を「五倫」に照らしながら整理・強化する。 |
多様性理解 | 成功者の出発点が違っていても、成果で評価する「公平性」の観点を持つ。 |
キャリア戦略 | **「好学→知」「力行→仁」「知恥→勇」**を自ら育てることで、自然にリーダー資質を養う。 |
経営倫理 | 修身(自省・節度)を欠いたリーダーには、治人・治国の資格がないという原則。 |
■心得まとめ
「五倫を通じて社会を知り、三徳を通じて自らを磨け」
君臣・父子・夫婦・兄弟・朋友の五つの道は、人間社会を織り成す基本の糸。
それを動かす力は、知・仁・勇の三つの徳。
どこから始めようと構わない――学ぶこと・行うこと・恥を知ること、そのどれからでも真の修養は始まる。
そして、自らを修めることができる者だけが、人を導き、国を治め、天下に徳を及ぼすことができるのだ。
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