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■引用原文(日本語訳)
「アルジュナはそこに、父親、祖父、師、叔父、兄弟、息子、孫、友人たちが立っているのを見た。」
―『バガヴァッド・ギーター』第1章 第26節
■逐語訳(一文ずつ)
- 「アルジュナは見た、
- 戦場に立っているのは、
- 自分の父、祖父、師、叔父、兄弟、息子、孫、友人たちであることを。」
■用語解説
- 父親・祖父・師(グル)・叔父など:アルジュナにとって尊敬・信頼・愛情の対象である身内たち。
- 孫・友人たち:血縁だけでなく、人生の仲間として結んできた関係者をも含む。
- 「見る」:単に視覚で捉えることではなく、「感情をともなった理解」を意味する。戦場に立つ彼らを“敵”としてではなく、“家族”として見てしまった瞬間である。
■全体の現代語訳(まとめ)
アルジュナは、戦場に立つ敵軍の中に、自分の最も大切な人々――父や祖父、師、兄弟、友人たち――の姿を見出す。その瞬間、戦いの構図は崩れる。「敵」と「味方」の境界が曖昧になり、戦場は「愛と義務と苦悩」が交差する場所へと変わる。
■解釈と現代的意義
この節は、アルジュナの心が大きく揺れ始めるきっかけです。戦う相手が「誰かの軍」ではなく、「自分が愛してきた人々」であると気づいたとき、人は簡単には剣を振るえません。
現代においても、職場の対立や判断の場面で、「相手はかつての恩人」「仲間」「家族のような存在」という場合があります。そのとき、単純な損得や勝敗では測れない「心の葛藤」が生まれるのです。そこに向き合うことこそが、人間としての成熟の第一歩です。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
人間関係を超えた判断力 | 取引や人事において、「情」だけでなく「公」を基準に判断する難しさがある。 |
共感と葛藤の共存 | 相手の背景や気持ちが見えるほど、対立は難しくなる。だからこそ冷静な視座が必要。 |
対立する関係者との関係性 | 問題の相手がかつての同僚や恩師だった場合、「見えすぎること」が判断を曇らせるリスクがある。 |
リーダーの孤独 | 部下・家族・友人が関わる中で決断を下さなければならないリーダーは、アルジュナのような苦悩を経験することがある。 |
■心得まとめ
「心で見る者は、剣を抜くことをためらう」
戦場に立つ相手の顔を見て、「これは戦いではなく、試練なのだ」と悟る瞬間がある。アルジュナが見たのは敵ではなく、愛する人々だった。決断の前に揺れる心、それを抑えず受け入れること――それが真に尊い心の強さである。
次の節では、アルジュナがその愛する者たちを前にし、心が崩れていく内面の描写がさらに深まっていきます。
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