目次
一、原文と逐語訳
原文:
勝茂公、「お鷹師何某は、用に立つ者にて候や」と、頭人にお尋ね遊ばされ候。
そのお請けに、「右の者は、不行跡者にて何の役にも立ち申さず候へども、
お鷹一通りは無類の上手にて候」と申上げ候に付て、即ち御褒美下され候。
その後、また一人のお鷹師の儀をお尋ね遊ばされ候。
お請けに、「お鷹一通りは無類の上手に候へども、不行跡者にて何の役にも立ち申さず候」
と申上げ候に付て、即ちお払いなされ候由。金丸氏話なり。
逐語訳:
- 勝茂公が、「某鷹師は使い物になる者か」と物頭(役職者)に尋ねた。
- 物頭は「その者は素行が悪くてまったく役に立ちませんが、鷹使いとしては抜群の技を持っています」と答えた。
- その鷹師はほうびを与えられた。
- 後日、また別の鷹師について尋ねたところ、
- 「鷹使いとしては抜群の技を持っていますが、素行が悪くてまったく役に立ちません」と答えた。
- 結果、その鷹師は即座に罷免された。
二、用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
頭人(とうにん) | 現場の責任者、または上司的立場の者 |
不行跡者(ふぎょうせきもの) | 行いが悪く、品行が劣っている者 |
無類の上手 | 他に並ぶ者がいないほどの熟練者 |
お払いばこ | 免職、追放の意 |
三、全体の現代語訳(まとめ)
鍋島勝茂公がある鷹匠について、使える人物かと家臣に尋ねた。
家臣が「素行は悪いが、鷹使いとしては非常に優れております」と答えたところ、その人物はほうびを賜った。
ところが、別の鷹匠について家臣が「鷹使いとしては非常に優れていますが、素行が悪くて使い物になりません」と答えたところ、今度はその人物は罷免されてしまった。
同じ事実でも、言い方の順序と表現で評価が変わってしまうという逸話である。
四、解釈と現代的意義
このエピソードは、言葉の順序や構成によって印象が大きく変わることを示しています。
現代で言うところの「初頭効果(primacy effect)」と「近接効果(recency effect)」がこれに該当します。
- 初頭効果:最初に述べたことが印象として強く残る
- 近接効果:最後に述べたことが印象に残りやすい
この違いによって、同じ情報でも結論がまったく変わってしまうのです。
五、ビジネスにおける応用
シーン | 推奨される話し方とポイント |
---|---|
報告書・プレゼン | 伝えたい結論やポジティブな要素を最初か最後に配置する |
部下の評価・推薦 | 「問題点もあるが、◯◯については抜群に優れている」 vs 「◯◯には長けているが、問題が多い」では前者の印象が良い |
クレーム対応 | 「ご迷惑をおかけしましたが、再発防止策を講じております」→対策を締めに置くと信頼が得やすい |
セールス | 製品の欠点を先に言っておいて、最後に強みを印象づけると説得力が増す |
六、まとめと教訓
「言い方ひとつが運命を分ける」
この章句が伝えるのは、単なる話術ではなく、「相手の判断を左右する責任ある表現」の重要性です。
人を紹介するとき、情報を伝えるとき、自分の意見を述べるとき——
どこに力点を置いて話すかを意識することで、信頼・評価・印象は大きく変わります。
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