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権限委譲の危険とその本質

T社の再生物語は、経営における権限委譲の危険性と、その背後にある本質的な問題を浮き彫りにしています。一見すると理想的に見える権限委譲が、なぜ会社を危機的状況に追い込む結果となったのか、その要因を考察します。


1. 権限委譲の落とし穴

権限委譲は、組織運営において重要な手法の一つです。しかし、その実施には細心の注意が求められます。T社のケースでは、以下のような問題が見られました。

(1) 社長が会社の舵取り役を放棄した

コンサルタントのアドバイスを受けて、社長は部長会への出席を控え、自らの役割を大幅に縮小しました。その結果、会社全体の方向性を示すリーダーシップが欠如し、組織全体が混乱に陥りました。

(2) 部長たちの能力不足

権限を委譲された部長たちが、経営に必要な視野や能力を持ち合わせていない場合、独自の判断で業務を進めることが裏目に出ることがあります。T社では、部長たちが具体的な成果を出せず、責任が分散されるだけで会社の運営が停滞しました。

(3) 社長の存在感の喪失

社長が部長会に出席しないことで、会社の最終決定者としての存在感が薄れ、組織がバラバラに動くようになりました。この結果、会社全体の統制が取れなくなったのです。


2. ワンマン経営の意義と限界

T社が再生の道を歩み始めたきっかけは、再びワンマン経営を軸に戻したことでした。しかし、ここで注目すべきなのは、単なる独裁的なワンマン経営ではなく、経営計画に基づく指揮が行われた点です。

(1) 社長のリーダーシップ

  • 社長が「自ら方向性を決定し、その責任を全うする」姿勢を明確にしたことで、社員たちは安心感を持ち、再び士気を高めることができました。
  • 社長自らが顧客訪問や現場調査を行い、得られた情報をもとに具体的で現実的な経営計画を策定したことが効果を発揮しました。

(2) ワンマン経営の再評価

  • ワンマン経営が批判されるのは、独断的で社員の意見を無視する場合です。しかし、T社のように明確なビジョンを提示し、それに基づいて全社員を動機づける形で行われるワンマン経営は、むしろ組織の結束を高める力を持っています。

3. 権限委譲とワンマン経営のバランス

権限委譲が完全に否定されるわけではありません。むしろ、適切に行われれば、組織の効率化や社員の能力向上につながります。しかし、以下のような条件が整っていない場合、権限委譲はむしろ逆効果となります。

(1) 明確な方向性の提示が必須

  • 権限を委譲する際には、社長が会社の未来像と具体的な目標を明確に示し、その達成に向けた指針を与える必要があります。

(2) 社員の能力を見極める

  • 部長や課長に十分な能力が備わっていない場合、権限を委譲するのは無謀です。むしろ、適切な教育や指導を通じて、彼らのスキルを高める必要があります。

(3) 社長が最終責任を担う

  • 権限委譲を行っても、最終的な責任は社長自身が負うべきです。経営の方向性を決める権限は、どのような状況でも社長が保持しなければなりません。

4. T社の再生に学ぶ教訓

T社の事例から、以下の重要な教訓が得られます。

(1) 権限委譲は万能ではない

  • 組織の状況や社員の能力に応じて、権限委譲の範囲と方法を慎重に選ぶ必要があります。
  • 「すべてを任せる」ことがかえって混乱を招く場合があることを理解するべきです。

(2) 社長のリーダーシップが不可欠

  • 社長が自ら会社の未来を決定し、その責任を果たす姿勢を示すことが、社員を動機づける最大の要因です。

(3) 経営計画の重要性

  • 経営計画が明確であれば、社長のリーダーシップと社員の行動を統一し、一体感を生み出すことができます。T社の再生の過程で、経営計画が果たした役割は非常に大きなものでした。

結論: 社長の「軸」を持つことの重要性

T社の再生は、社長自身が会社の「軸」としての役割を取り戻し、全社員を一つの方向に導いた結果です。権限委譲は、あくまで経営の補助的手段であり、会社の未来を決定し、その実現に責任を持つのは社長自身です。

「会社は社長次第でどうにでもなる」という言葉は、T社の再生を通じてまさに証明されました。経営の核として、社長が自ら動き、会社の将来を築く姿勢こそが、企業の成功を支える基盤であると言えます。

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