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255 心と才を備えし、孔子の十弟子たち

徳・言葉・政治・文学、それぞれの道に光を放った人々

晩年の孔子が思い出すのは、かつての苦難を共にした優れた門弟たちだった。
陳と蔡の間で国難に遭い、食糧も尽きるほどの危機に見舞われた旅路――そこに随行した弟子たちの多くは、今や世を去り、官に仕え、あるいは郷里へと戻ってしまった。

孔子は、彼らを深い愛情と敬意をもって語る。
中でも特に優れた弟子たちは、後に「孔門の十哲」と称された。

  • 徳行に秀でた者:顔淵(がんえん)、閔子騫(びんしけん)、冉伯牛(ぜんはくぎゅう)、仲弓(ちゅうきゅう)
  • 言語に巧みな者:宰我(さいが)、子貢(しこう)
  • 政事に強い者:冉有(ぜんゆう)、季路(子路・ころ)
  • 文学に優れた者:子游(しゆう)、子夏(しか)

それぞれの分野で光る才をもちながら、師と共に困難を乗り越えた弟子たち。
孔子が彼らを「門に及ばざるなり(今はもう門にいない)」と嘆いたのは、別れの寂しさだけでなく、その志を継ぐ者が少なくなった現実への憂いでもあったのかもしれない。


引用(ふりがな付き)

子(し)曰(い)わく、我(われ)に陳蔡(ちんさい)に従(したが)いし者は、皆(みな)門(もん)に及(およ)ばざるなり。
徳行(とくこう)には顔淵(がんえん)・閔子騫(びんしけん)・冉伯牛(ぜんはくぎゅう)・仲弓(ちゅうきゅう)、
言語(げんご)には宰我(さいが)・子貢(しこう)、政事(せいじ)には冉有(ぜんゆう)・季路(ころ)、
文学(ぶんがく)には子游(しゆう)・子夏(しか)ありき。


注釈

  • 陳蔡(ちんさい):孔子が六十四歳の頃に訪れた、現在の河南省近辺。諸侯の妨害に遭い、孔子一門が危機にさらされた地。
  • 孔門の十哲:孔子の数多くの弟子の中でも特に優れた10人を、後世においてこのように称した。
  • 門に及ばざるなり:直訳は「もう門人には及ばない」、つまり「すでに私の門から離れてしまった」という意味。

1. 原文

子曰、從我於陳蔡者、皆不及門也。德行:顏淵、閔子騫、冉伯牛、仲弓。言語:宰我、子貢。政事:冉有、季路。文學:子游、子夏。


2. 書き下し文

子(し)曰(いわ)く、我(われ)に陳蔡(ちんさい)に於(お)いて従(したが)いし者は、皆(みな)門(もん)に及(およ)ばざるなり。徳行(とくこう)には顔淵(がんえん)・閔子騫(びんしけん)・冉伯牛(ぜんはくぎゅう)・仲弓(ちゅうきゅう)、言語(げんご)には宰我(さいが)・子貢(しこう)、政事(せいじ)には冉有(ぜんゆう)・季路(きろ)、文学(ぶんがく)には子游(しゆう)・子夏(しか)あり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「子曰く、我に陳蔡に従いし者は、皆門に及ばざるなり」
     → 孔子は言った。「私が陳や蔡に流浪していたときに同行していた弟子たちは、皆まだ私の門下としての深さに至っていなかった。」
  • 「徳行には顔淵・閔子騫・冉伯牛・仲弓」
     → 「道徳の実践に秀でていたのは、顔淵・閔子騫・冉伯牛・仲弓である。」
  • 「言語には宰我・子貢」
     → 「弁舌や言語表現に長けていたのは、宰我と子貢である。」
  • 「政事には冉有・季路」
     → 「政治・行政に才能を発揮したのは、冉有と季路である。」
  • 「文学には子游・子夏あり」
     → 「学問や教養面では、子游と子夏が優れていた。」

4. 用語解説

  • 陳蔡(ちんさい):孔子が政治的に放浪し、困窮した地。弟子たちとともにさまよった記録がある。
  • 門に及ばざる(門に及ばず):「私の本来の学びの門に達していない」、つまりまだ完全に学びを深めたわけではないことを指す。
  • 徳行:道徳的な人格、行動規範。
  • 言語:討論・対話・弁舌の力。説得力や表現力。
  • 政事:政治・組織運営・マネジメント能力。
  • 文学:知識・教養・学問全般。

※ここで登場する弟子たちは、孔子の門下の中でも代表的な人物です。


5. 全体の現代語訳(まとめ)

孔子は次のように述べています:

「かつて私が陳や蔡の地で放浪していた際に同行していた弟子たちは、いずれも私の教えの真髄にまだ達してはいなかった。道徳的実践で優れていたのは顔淵、閔子騫、冉伯牛、仲弓。弁舌に秀でていたのは宰我と子貢。政治・実務に強かったのは冉有と季路。そして学問や教養では子游と子夏が優れていた。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、孔子が自らの弟子たちの特徴や得意分野を冷静かつ客観的に評価した記録です。ここには、以下のような重要な思想が含まれています。

  • 個々の特性を認め、分野ごとに適材適所を重んじる思想
  • 全体的な完成度(門に及ぶ)とは別に、特定分野での秀逸さを認識する目
  • 教育者としての孔子の冷静な分析力と評価基準

「すべてに秀でていなくても、一芸に秀でていれば十分価値がある」という、多様性を尊ぶ考え方が現れています。


7. ビジネスにおける解釈と適用

❶「人材は“総合評価”より“特化評価”で活かせ」

– 組織内で「完璧な人材」を探すより、特定分野に強みを持つ人材を見出し、活かすことが効果的。たとえば:

分野現代の適用例
徳行人間力/倫理観/コンプライアンス遵守
言語営業/広報/プレゼン/交渉力
政事マネジメント/プロジェクト管理
文学企画立案/教育/ドキュメント作成

❷「リーダーはメンバーの“伸ばすべき強み”を見極めよ」

– 孔子のように、それぞれの得意分野を冷静に把握し、配置・評価・育成に活かすことが優れたマネジメントです。

❸「苦境でともにした仲間も、過信してはいけない」

– 陳蔡の困窮時に同行した者たちを「門に及ばず」と評価する厳しさは、情より実力・本質を重んじる態度の表れ。情に流されない評価軸がリーダーには必要です。


8. ビジネス用心得タイトル

「人材は“総合”で測るな、“特化”で輝かせよ──孔子に学ぶ適材適所の極意」


この章句は、現代のチームビルディングや人材配置にも直結する内容です。
全員が万能である必要はなく、それぞれが光る分野で価値を発揮できることが、健全な組織の鍵である──その原理を、孔子は2,500年前に説いていたのです。

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