目次
■引用原文(日本語訳)
二六─二九*
手むかうことなく罪咎の無い人々に害を加えるならば、
次に挙げる十種の場合のうちのどれかに速かに陥るであろう:
(1)親族の滅亡、(2)財産の消滅、(3)国王からの侵略、(4)恐ろしい告げ口、
(5)激しい痛み、(6)身体の傷害、(7)重い病い、(8)乱心、
(9)家が火災で焼ける、(10)ついには智力を失い、地獄に堕ちる。
―『ダンマパダ』より
■逐語訳
- 手むかうことなく罪咎の無い人々:自分に何もしていない善良で無実な人々。
- 害を加える:直接的な暴力だけでなく、悪口、中傷、裏切りなどの加害全般。
- 十種の禍(わざわい):人間関係・財産・健康・精神・社会的信頼など、人生におけるあらゆる面での深刻な報いを意味する。
■用語解説
禍の種別 | 説明 |
---|---|
親族の滅亡 | 家族関係の崩壊や不幸の連鎖。 |
財産の消滅 | 経済的困窮、破産、信用喪失。 |
国王からの侵略 | 権威・上位者からの制裁、組織的圧力。 |
恐ろしい告げ口 | 評判や立場を傷つける告発や暴露。 |
激しい痛み | 精神的苦痛・罪悪感の重圧。 |
身体の傷害 | ケガ、事故、暴力の報い。 |
重い病い | 心身のバランスを崩す病気。 |
乱心 | 精神の混乱、うつ・不安・暴走。 |
家が焼ける | 生活基盤の崩壊、取り返しのつかない損失。 |
地獄への堕落 | 最後に知性も道徳も失い、自滅に至る道。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
無実の人に害を加えるような行為をすれば、その報いは必ず自分に返ってくる。
しかもそれは、家族や財産、健康や精神、社会的信用までもが崩れるような、深く重大な十種の禍となって現れる。
最終的には、理性を失い、堕落と破滅の道をたどるのだ。
■解釈と現代的意義
この偈は、「無実の人に対する加害」は人間として最も重い罪であり、その結果は避けられないという、因果応報の厳格な教えです。
不正な攻撃や無責任な中傷は、一見成功を得るように見えても、確実に自分自身とその周囲を破壊していきます。
どんなに巧妙に偽装しても、宇宙の法は欺けない。
そして悪意の代償は、じわじわと、あるいは突然に、思いもよらぬ形で現れるのです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 応用例 |
---|---|
評判と信用 | 無実の部下や同僚を攻撃・排除した者は、信頼を失い、自らの立場を危うくする。 |
内部告発と企業倫理 | 組織ぐるみで“罪なき人”を追い詰める体質は、社会的制裁・炎上・信用崩壊を引き起こす。 |
リーダーシップ | 上司が不当に誰かを責める文化は、チーム全体に不信・混乱・崩壊をもたらす。 |
自己保全 | 利己的な攻撃や足の引っ張り合いは、一時の成果を生んでも、長期的には自滅へとつながる。 |
■心得まとめ
「咎なき者を傷つければ、十の報いが自らに返る」
目先の怒りや損得で、無実の者を傷つけてはならない。
それはやがて、あなたの家、心、体、未来に火をつける。
――害意は、まわりまわって己を焼く火となる。
慈悲と正義の心を保ち、すべての人を等しく見ることが、人生を守る最良の防火策なのです。
この偈は、「加害と報い」「職場のハラスメント」「組織正義の指針」などにおいて応用できる強い倫理メッセージを含みます。
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