――表面の振る舞いより、根っこの礼を教えたい
ある日、闕党(けったん)という村の少年が、孔子の家で来客の取次役をしていました。
それを見た人が不思議に思って、こう尋ねます。
「あの少年は、よほどしっかりしていて有能なのですか?」
孔子はそれに答えて言います。
「いや、そうではない。
私が見るに――
- 彼は部屋では、大人と同じ位置に座りたがる。
- 歩く時も、年長者と並んで歩こうとする。
つまり、彼は“一足飛びに立派な大人になろうとしている”のだ。
だからこそ私は、彼に取次役をさせながら、基本となる礼儀作法を教えているのだ。」
本質:
このやりとりから、孔子の**「教育観」、とくに人を育てるには順序がある**という思想がよく表れています。
- 若者が成長を急ぐ気持ちは尊い。だが、焦って真似をしても中身が伴わなければ意味がない。
- 「益(やく)に立つ者」=今すぐ有能な存在ではなく、「成(な)らんと欲する者」=将来立派になろうとする心がけに注目している。
- 孔子は、取次という役割を通じて「礼の本質」を教えようとしているのです。
原文とふりがな付き引用:
「闕党(けったん)の童子(どうじ)、命(めい)を将(も)う。
或(あ)るひと之(これ)を問いて曰(い)わく、
益(やく)する者か。
子(し)曰(い)わく、
吾(われ)、其(そ)の位(くらい)に居(お)るを見、
其の先生(せんせい)と並び行(ゆ)くを見たり。
益を求むる者に非(あら)ざるなり。
速(すみ)やかに成(な)らんと欲する者なり。」
注釈:
- 闕党(けったん) … 魯国の一地方。孔子の弟子や身辺の人々の出身地にも多く見られる。
- 童子(どうじ) … 少年、子ども。
- 命を将う(めいをたまう) … 取次役として使者の伝言や連絡を行うこと。
- 益する者 … 現在すでに役に立っている者、有能な補佐。
- 成らんと欲する者 … 早く立派になろうと焦る者。形ばかり真似て中身が追いつかない状態。
教訓:
この章句は、人を育てるには「型(かた)」と「心」を根本から整える必要があるということを教えています。
- 若者にとって、早く大人のように振る舞いたい気持ちは自然だが、焦りは誤りを生む。
- 育成する側にとっても、**「できること」より「どうなろうとしているか」**を見てあげることが大切。
- **教育とは、順序と礼から始まる「人づくり」**である。
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