孟子は、関所の本来の役割と、当時の関所の現状を比較して、厳しく批判した。
もともと関所は、外敵や乱暴者を防ぎ、民の安全を守るための防衛施設だった。
しかし今では、通行する民から税金や賄賂を徴収し、かえって民に暴力的な苦痛を与える場と化してしまっている。
つまり、本来「暴を禦(ふせ)ぐ」ための場所が、むしろ「暴を為す」――つまり、国家自らが暴力をふるう装置になってしまっているというのだ。
これは孟子の一貫した「民本主義」の視点、すなわち民のためにあるべき統治が、民を苦しめる手段に変わることへの怒りを示している。
税や制度は、正しく機能すれば人を守り、間違って使えば人を傷つける。
孟子の言葉は、どの時代においても、権力と公共制度の使い方への根源的な問いを突きつけている。
引用(ふりがな付き)
「孟子(もうし)曰(いわ)く、古(いにしえ)の関(せき)を為(つく)るや、将(まさ)に以(もっ)て暴(ぼう)を禦(ふせ)がんとす。今(いま)の関(せき)を為(つく)るや、将(まさ)に以(もっ)て暴(ぼう)を為(な)さんとす」
注釈
- 関(せき)…国境や交通の要所に設けられた関所。通行や物資の流れを管理するための場所。
- 禦暴(ぎょぼう)…暴力・乱暴者を防ぐこと。治安維持や防衛の目的。
- 為暴(いぼう)…暴力をふるう、すなわち支配側が民に対して搾取的な行為を行うこと。
- 将に~んとす…「まさに~しようとする」。目的や意図を示す文語表現。
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