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権力は民を守るためにあり、搾取のためではない

孟子は、関所の本来の役割と、当時の関所の現状を比較して、厳しく批判した。
もともと関所は、外敵や乱暴者を防ぎ、民の安全を守るための防衛施設だった。
しかし今では、通行する民から税金や賄賂を徴収し、かえって民に暴力的な苦痛を与える場と化してしまっている。

つまり、本来「暴を禦(ふせ)ぐ」ための場所が、むしろ「暴を為す」――つまり、国家自らが暴力をふるう装置になってしまっているというのだ。
これは孟子の一貫した「民本主義」の視点、すなわち民のためにあるべき統治が、民を苦しめる手段に変わることへの怒りを示している。

税や制度は、正しく機能すれば人を守り、間違って使えば人を傷つける。
孟子の言葉は、どの時代においても、権力と公共制度の使い方への根源的な問いを突きつけている。


引用(ふりがな付き)

「孟子(もうし)曰(いわ)く、古(いにしえ)の関(せき)を為(つく)るや、将(まさ)に以(もっ)て暴(ぼう)を禦(ふせ)がんとす。今(いま)の関(せき)を為(つく)るや、将(まさ)に以(もっ)て暴(ぼう)を為(な)さんとす」


注釈

  • 関(せき)…国境や交通の要所に設けられた関所。通行や物資の流れを管理するための場所。
  • 禦暴(ぎょぼう)…暴力・乱暴者を防ぐこと。治安維持や防衛の目的。
  • 為暴(いぼう)…暴力をふるう、すなわち支配側が民に対して搾取的な行為を行うこと。
  • 将に~んとす…「まさに~しようとする」。目的や意図を示す文語表現。
目次

1. 原文

孟子曰、古之爲關也、將以禦暴。今之爲關也、將以爲暴。


2. 書き下し文

孟子(もうし)曰(いわ)く、古(いにしえ)に関(せき)を為(つく)るや、将(まさ)に以(もっ)て暴(ぼう)を禦(ふせ)がんとす。
今(いま)に関を為るや、将に以て暴を為(な)さんとす。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 古之爲關也、將以禦暴。
     → 昔、人々が関所を設けたのは、暴力や侵略を防ぐためであった。
  • 今之爲關也、將以爲暴。
     → 今、人々が関所を設けるのは、かえってその関所を使って暴政を行うためである。

4. 用語解説

  • 関(せき):交通の要所や国境に設けられた関所・関門。人の出入りや物資の通行を制御する場所。
  • 禦(ぎょ・ふせぐ):防ぐ、守る、遮るの意。
  • 暴(ぼう):暴力、あるいは権力の乱用、圧政、暴政のこと。
  • 為(なす):行う、遂行する、用いる。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう言った:

「昔、人々が関所を設けたのは、外からの暴力や侵略を防ぎ、民を守るためであった。
しかし今では、関所は民から搾取し、抑圧するための手段になってしまっている。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「制度や仕組みは、それをどう使うかで善にも悪にもなる」という孟子の深い洞察を表しています。

孟子が問題視しているのは、本来“守るための制度”が、“攻める・搾取する”道具に変質していることです。
すなわち、**「目的と手段の逆転」**です。

かつて関所は、外敵から国民を守る「防御」の装置だった。しかし今や、税を取ったり、通行を制限したりして、民を苦しめる“暴力の具”に変貌してしまったというのです。


7. ビジネスにおける解釈と適用

「制度は“何のためにあるか”を問い直せ」

  • 本来、社内規則・評価制度・コンプライアンスは社員や顧客を守るために存在する。
  • しかし、それが上司の都合で使われたり、現場の声を封じる道具になった瞬間に、“禦暴”から“爲暴”に変わる。

「チェック機構が抑圧装置になっていないか」

  • レビュー、承認、報告といった関所的手続きも、**適正運用されなければ“現場の自由を奪う暴政”**になる。
  • 管理やルールは、「守る」ために使うのか、「縛る」ために使うのかが常に問われる。

「本来の目的に立ち返る思考習慣を」

  • 問題が生じたときには、**「これは誰を守るための仕組みだったか?」**と原点に立ち返ることが、制度疲労を防ぎ、健全な組織運営を可能にする。

8. ビジネス用心得タイトル

「守るための仕組みが、搾取の道具に堕ちるとき──“制度の正義”を問え」


この章句は、孟子の思想の中でも特に現代性が高く、企業運営・組織設計・社会制度への批判にも通じるものです。
「目的を見失った制度は、暴力となる」──この警句は、今なお深い意義を持ちます。


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