中長期の事業戦略を立てるうえで、「目標損益計算書(P/L)」に続いて必要となるのが**目標貸借対照表(B/S)**です。この記事では、すでに5年分のP/Lがあることを前提に、そこから逆算的にB/Sを作成する手順を分かりやすく解説します。
目次
なぜ目標B/Sを作るのか?
損益計算書(P/L)は「流れ(フロー)」の情報を示すのに対し、貸借対照表(B/S)は「時点(ストック)」の状態を示します。たとえば、
- どのくらいの資産を保有しているか?
- 資金繰りは安全か?
- 借入・自己資本比率は適切か?
といった問いに答えるために、未来時点での財務状態(B/S)をシミュレーションすることが重要です。
作成の前提条件
まず、以下の情報または仮定を用意しましょう。
項目 | 具体例・仮定 |
---|---|
売掛金回収サイト | 売上の2か月後に回収(=売上 × 2/12) |
棚卸資産保有期間 | 売上原価の2か月分(=原価 × 1.5/12) |
仕入債務支払サイト | 原価の1か月後に支払(=原価 × 1/12) |
設備投資・減価償却 | 年間売上の3〜5%で投資、5年で償却 |
配当政策 | 配当なし or 利益の○% |
借入政策 | 不足資金を借入で賄う or 自己資本で対応 |
目標B/S作成ステップ
Step 1. 損益計算書(P/L)を確認
まずは5年分のP/L(売上・原価・利益など)を年度別に一覧化。特に以下の項目を抽出します:
- 売上高
- 売上原価
- 営業利益・経常利益
- 減価償却費(なければ仮定)
- 当期純利益
Step 2. キャッシュフローを推計する
次に、利益ベースの数値を「現金ベース」に直します:
営業CF = 経常利益 + 減価償却費 ± 運転資本増減
投資CF = 設備投資支出
財務CF = 借入増減、配当、増資など
この営業CFを積み上げることで、各年度末の現金残高を計算できます。
Step 3. 運転資本の計算
ここでは「売掛金」「棚卸資産」「買掛金」をP/Lと回転期間から逆算します。
項目 | 計算式 |
---|---|
売掛金 | 売上高 × 売掛回収サイト(例:2か月=2/12) |
棚卸資産 | 売上原価 × 在庫保有期間(例:1.5か月=1.5/12) |
買掛金 | 売上原価 × 支払サイト(例:1か月=1/12) |
Step 4. 固定資産と減価償却
新たな設備投資がある場合、固定資産としてB/Sに計上し、数年で減価償却します。
- 初期の固定資産+年度ごとの投資額 − 累計償却 = 年度末残高
- 減価償却費はP/Lに計上し、利益とCFに影響します
Step 5. 純資産と借入金を設定
- 利益剰余金:前年までの累積利益 − 配当
- 自己資本:資本金や出資など
- 不足する資金は、借入金で調整してバランスを取ります。
Step 6. バランスチェック
最終的に以下の関係が成立するかを確認します:
コピーする編集する資産合計 = 負債合計 + 純資産合計
差異が出る場合は、現金・借入などで再調整します。
例:簡易目標B/Sフォーマット(イメージ)
項目 | 2025年度 | 2026年度 | 2027年度 |
---|---|---|---|
現金及び預金 | 5,000 | 6,500 | 7,800 |
売掛金 | 2,000 | 2,300 | 2,600 |
棚卸資産 | 1,200 | 1,400 | 1,500 |
固定資産 | 3,000 | 3,500 | 3,900 |
資産合計 | 11,200 | 13,700 | 15,800 |
買掛金 | 1,000 | 1,100 | 1,200 |
借入金 | 4,000 | 4,000 | 4,000 |
利益剰余金 | 3,200 | 5,600 | 7,800 |
自己資本 | 3,000 | 3,000 | 2,800 |
負債+資本合計 | 11,200 | 13,700 | 15,800 |
※単位は万円など想定
まとめ:目標B/Sは戦略の「裏付け」
目標B/Sは、「利益が出ればなんとかなる」では済まされない資金の流れと健全性の可視化ツールです。とくに以下のような経営課題に有効です:
- 設備投資や新規事業に必要な資金量の把握
- 借入比率や自己資本比率のシミュレーション
- 将来のキャッシュショートリスクの回避
おまけ:Excelテンプレート配布も検討中
必要な方には、今回ご紹介した考え方を反映した「目標B/Sテンプレート(Excel)」をご提供可能です。興味のある方はコメントまたはDMにてご連絡ください。
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