MENU

目標貸借対照表

資金運用計画が完成した段階で、この表を再確認してほしい。記載されている数値は、すべて期中における増減を示している。そのため、期首、すなわち前期末の数値に、期中の増減額を加減すれば、期末の数値を算出することが可能となる。言い換えれば、期末バランスシートが作成できるということだ。この点については、「第17表」と巻末の「第18表」を用いて説明していく。

「第18表」は、「第17表」を基にした会社のバランスシートだ。「第17表」に記載された数値を、正確に「第18表」の期中増減欄に転記することで完成する仕組みになっている。

この転記作業を、これまで社長セミナーで数千人に実習してもらったが、誤りなく転記できたのは、ほんの数人に過ぎない。もっとも、できなくて当然とも言えるだろう。教えてくれる人がいないうえ、専門書にもその方法は記載されていない。つまり、学ぶ機会そのものが存在しないのだ。

話を元に戻して、期末バランスシートの作成に取りかかる。「第18表」の資産の部からスタートだ。資金運用計画に記載された数字を、上から順に期中増減として転記していけばいいだけの話だ。

資産の部は比較的シンプルで取り組みやすいが、負債・資本の部は少々厄介だ。「第18表」に関して、いくつか補足しておく。たとえば流動資産に含まれる「予定納税」についてだが、前期の予定納税額は当期の納税に充てられるため全額減少し、逆に当期の予定納税額は増加として計上される。次に、固定資産に含まれる「償却資産」については、当期の設備投資が増加要因となり、一方で当期の減価償却額が減少要因として扱われることになる。

流動負債の「支払手形」について説明しよう。前期の設備支払手形決済分は減少要因となり、当期に発生した設備支払手形は増加要因として扱う。また、支払手形全体の増加分は、そのまま増加として計上すればよい。一方、「納税引当金」に関しては少々補足が必要になるため、こちらは後回しにする。

固定負債の「長期借入金」については、返済が減少要因となり、新たな借入れが増加要因となることは言うまでもない。また、引当金については、納税引当金などと合わせて後ほどまとめて説明することにする。資本金に関しては、増資があればそのまま増加として処理すればよく、特に説明の必要はないだろう。

内部留保は、さまざまな積立金や準備金をまとめたものだと考えればよい。その基本的な流れとして、前期の利益金が内部留保に組み込まれ、その中から前期の配当金や役員賞与が支払われる形になる。このため、内部留保の増加要因は前期利益金、減少要因は配当金および役員賞与という理解で問題ない。

当期利益については、まず前期利益が内部留保に回されるため、その分が減少として扱われる。そして、最終的に残った部分が当期の経常利益となる。ただし、経常利益をそのまま当期利益に記入するわけではない。この点を正確に理解することが重要だ。

自社の決算報告書にある損益計算書を確認してみると、経常利益の次に「特別利益」と「特別損失」という項目が記載されているはずだ。これらは税法上の基準で定められた収益や損失であり、実際の取引や資金収支とは直接関係がない。ただの帳簿上の数字に過ぎないことを理解しておく必要がある。

特別利益の多くは、前期に発生した分の繰り戻しであり、一方、特別損失は当期の繰り入れ分として計上される。このため、営業規模が拡大するほど特別損失の金額が大きくなる傾向があり、その結果、税引前利益は経常利益よりも少なくなる構造になっている。

この差額が「資本蓄積」となり、課税対象から除外される仕組みになっている。この資本蓄積の増加分は、引当金の増加として期中増減に記入される。一方で、課税対象となるのは税引前利益である点をしっかり押さえておく必要がある。

税引前利益には法人税と地方税が課されるため、決算書ではこれらを「納税引当金」として計上し、その残りが「当期利益」となる仕組みだ。つまり、経常利益はバランスシート上では「引当金」と「納税引当金」、そして「当期利益」の2つに分割して記載される。この損益計算書とバランスシートの関係を整理すると、以下のようになる。

  • 損益計算書バランスシート
  • 経常利益 → 引当金
  • 税引前利益 → 法人税引当金
  • 当期利益 → 当期利益

これで期中増減の記入が完了し、左右の数字がバランスする状態になる。もしもバランスしない場合、どこかに誤りがある可能性が高い。その場合は、以下の順序で確認するとよい。

  1. 資金運用計画の計算に誤りがないか検算する
    資金運用計画自体の計算が正確かどうかを再確認する。
  2. 資金運用計画の数字をすべてバランスシートに転記したか確認する
    計画の全ての数値が正しく転記されているか、一つずつ確認していく。

これらを順番に調べることで、問題点を特定し修正することができる。

それでも誤りが見つからない場合は、次の方法でチェックを進める。

  1. 左右の数字の合計の差額を計算する。
    バランスしない部分の金額を明確にする。
  2. その差額と同額の数字が資金運用計画に含まれているかを確認する。
    資金運用計画をもう一度見直し、差額と一致する数値が記載されていないかをチェックする。
  3. 該当する数字があれば、それが正確にバランスシートに転記されているかを確認する。
    転記漏れや転記ミスがないか、細かく検証する。

これらの手順を経れば、誤りの原因を特定し修正できるはずだ。

それでも原因がわからない場合は、差額の半分に該当する数字が資金運用計画に含まれているかを確認する。その数字が見つかった場合、増減欄で増加と減少が逆に記入されていないかを調べる必要がある。このミスがあると、結果的に差額の三倍の数字が左右の合計のズレとして現れるからだ。それ以外の原因としては、計算や記入時の入れ違いが考えられる。

増減が左右でバランスすれば、期末バランスシートは簡単に作成できる。期首の数値に期中増減を加減すれば、期末の数値が算出される。この手順で、期末目標バランスシートが完成することになる。

バランスシートは、事業経営のあらゆる成果を一枚の表に凝縮したものと言える。最終的に社長の手腕も、このバランスシートによって評価されることになる。

だからこそ、バランスシートは単に事業経営の結果として自然に形成されるものではなく、社長自身の意思によって意図的に作り上げられるべきものだ。この基本的な認識が欠けていることがほとんどだ。それも無理はない。どの書籍にも、バランスシートを前向きにどう構築するかといった具体的な方法論はほとんど書かれていないからだ。

というのも、いわゆる会計学と呼ばれる学問は、企業活動の実績をまとめ、分析し、それを報告するという枠組みの中に収まっている。実績が存在しなければ、何も始まらない、いわば「過去の学問」なのだ。そのため、資金運用についても実績を分析するという発想は含まれているが、未来を見据えた能動的な視点は欠けている。

過去の資金運用を分析し、あれこれ論じるのは、事業経営に直接の責任を負わない部外者だからこそできる、気楽な作業にすぎない。一方で、それは社長が取るべき姿勢ではない。社長の役割は、過去を批評するのではなく、未来を見据えた資金運用の方向性を自らの意思で決定し、実行に移すことにある。

どれだけ過去の資金運用を分析しても、過去の数字は一円たりとも変えることはできない。それが事実だ。もし、過去の分析から将来への示唆を引き出す力があるのなら、その力は未来に向けて活用されるべきだ。ただ振り返るだけではなく、得られた知見を基に前向きな行動を起こすことこそ、真に価値のある使い方と言える。

前向きな考え方とは、経営計画に基づいて自らの意思で資金運用を設計することにある。その設計を分析し、潜在的なリスクを事前に見極める。さらに、より効率的で効果的な資金運用の可能性を研究し、これらの要素を統合しながら必要な修正を加えて最終的な決定を下す。このプロセスこそ、経営者が取るべき能動的な資金運用のアプローチだ。

さらに、決定した資金運用を実現するためには、具体的な指導方針と管理の基本事項を定めることが必要だ。それを社内に徹底的に浸透させ、全員が共有する体制を築く。そして、実施後にはその結果をチェックし、計画通りに進んでいるか、または修正が必要かを確認していく。この一連の流れが、計画を現実の成果へと結びつける鍵となる。

この考え方に基づき、自らの意思で作り上げた資金運用計画を厳密にチェックする。それこそが、期末バランスシートを用いた財務分析の本質だ。計画と実績を比較し、意図した結果がどの程度実現されているかを把握し、経営の舵取りに役立てるための重要なプロセスである。

「前向きの財務分析」とは、未来を見据えた経営を行う社長自身が取り組むべきものだ。過去の財務分析にのみ依存していては、得られる情報は抽象的で、具体的な未来の意思決定には十分役立たない。未来をデザインし、計画を実現するための分析こそ、経営における真の武器となる。

抽象的な情報も確かに必要だが、それ以上に重要なのは、社長が自らの事業計画の結果を事前にチェックすることだ。このプロセスによって、計画の実現可能性やリスクをあらかじめ把握することができる。一方で、過去の分析は、たとえそこから何かを発見できたとしても、それは教訓としての価値にとどまり、すでに終わった事実を修正することは不可能だ。未来を見据えた経営においては、過去ではなく、これからの結果を事前に見通すことが不可欠だ。

前向きの分析の最大の利点は、不都合が発見された場合、それを修正できる点にある。過去の分析では得られないこの柔軟性こそが、事前分析の価値だ。実際、私は事前分析を通じてリスクを回避した具体的な事例を数多く経験している。その中でも、最も重要なテーマは「資金」に関するものであることは言うまでもない。この点についての詳細な説明は、「長期資金運用計画」で触れることとする。

前向きの財務分析の中でも、「損益」に関する部分は「利益計画」の中で自然に行われるものだ。「利益計画」とは、事前に損益を分析し、その結果を基に修正を加えるプロセスとも言える。これにより、計画的かつ柔軟な利益目標の設定と達成が可能になる。損益分析が未来志向であることで、単なる予測ではなく、具体的なアクションプランの基盤となる。

もう一つの前向き分析はバランスシートを基に行うものだ。ただし、この分析では、項目をむやみに増やせばよいというわけではない。むしろ、重要なポイントを簡潔かつ的確に押さえた分析が求められる。「簡にして要を得る」姿勢が、効果的な財務分析には不可欠だ。焦点を絞り、実践的な洞察を得ることが目的である。

私が採用しているのは、巻末の「第19表」のような形式だ。この程度のシンプルさで十分だと考えている。この表の特徴は、期首(つまり前期)と期末を比較対照することで、変化や傾向を把握できる点にある。その傾向を視覚的に分かりやすくするため、矢印を使って判定を示すようにしている。これにより、全体の流れや課題が直感的に理解しやすくなる。

矢印の向きには以下の意味がある。右上がりは上昇を、水平は横ばいを、右下がりは下降傾向を示している。ただし、固定比率や長期適合率のように比率が小さいほど望ましい指標の場合、矢印が右下がりであっても「上昇」として評価することになる。これらの具体的な例については、別巻の「経営計画実例集」に掲載されているので、そちらを参考にするとよい。

目標貸借対照表の作成は、資金運用計画の数字をもとに期末の財務状態を予測し、計画的に財務の健全性を保つために欠かせません。この表は、期首(前期末)の財務データに期中の増減を加減することで、目標とする期末バランス・シートを作成するものです。

作成手順

  1. 資産の部の記入:
  • 期中の増減を順に転記。流動資産と固定資産の増減を確認し、予定納税や当期の減価償却費などの調整も行います。
  1. 負債・資本の部の記入:
  • 負債と資本項目の増減を確認。たとえば、支払手形、長期借入金の増減、配当金や役員賞与、内部留保の変動などを反映します。
  1. 当期利益の分配:
  • 経常利益を元に特別利益・損失を調整し、税引前利益を算出。この利益から法人税・地方税を引いた納税引当金を設定し、残りを当期利益とします。
  1. バランスの確認:
  • 記入した増減が左右バランスしているか確認します。不一致がある場合は、資金運用計画や転記の正確性を再チェックします。
  1. 期末目標バランス・シートの完成:
  • バランスが取れたら、期末目標バランス・シートを完成させ、目標に対する財務指標を確認します。

財務指標と前向きの財務分析

目標貸借対照表は、将来の財務状態を分析し、リスクを事前に察知し回避するための重要な資料となります。このプロセスにおいて「前向きの財務分析」が行われ、固定比率や長期適合率などの指標を使って、財務の健全性と成長性を確認します。例えば、固定比率や長期適合率は小さいほうが望ましいため、矢印を使って傾向を視覚化し、指標の改善が見られるかをチェックします。

目標貸借対照表を通じて、資金運用計画の実行可能性と将来の財務健全性を評価し、適切な資金管理と意思決定を支えることができます。このプロセスは、単なる過去の実績を分析するだけでなく、積極的に未来を見据えて計画を形作る上で重要です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次