町の賢しらな人と付き合うよりも、山の静かな老人と語らうほうが心が休まる。
権勢ある家の敷居を踏むより、親しい友人の粗末な家に立ち寄るほうが心は通う。
くだらない噂話に耳を傾けるより、きこりや牧童が口ずさむ素朴な歌に耳をすます方が、むしろ心に染みる。
そしてなにより、人の失敗や不徳をあれこれ語るより、昔の偉人たちの立派な言葉や行いを語り合いたい。
そのような語らいは、人を貶めず、自らを高めることに通じる。
それは、時代を超えて偉人と友となる「尚友(しょうゆう)」の境地であり、吉田松陰もまた「この楽しみは、我と離れることなし」と語っている。
心を濁す情報より、心を澄ませる語らいを選びたい。
原文(ふりがな付き)
「市人(しじん)に交(まじ)わるは、山翁(さんおう)を友(とも)とするに如(し)かず。
朱門(しゅもん)に謁(えつ)するは、白屋(はくおく)に親(した)しむに如(し)かず。
街談巷語(がいだんこうご)を聴(き)くは、樵歌牧詠(しょうかぼくえい)を聞(き)くに如(し)かず。
今人(こんじん)の失徳過挙(しっとくかきょ)を談(だん)ずるは、古人(こじん)の嘉言懿行(かげんいこう)を述(の)ぶるに如(し)かず。」
注釈
- 市人(しじん):町に住む世俗的で抜け目のない人々。
- 山翁(さんおう):山中に住む静かな老人。素朴で分別ある人。
- 朱門(しゅもん):権力や財力の象徴。高位高官の住まい。
- 白屋(はくおく):質素な家庭。心の通う親しい人の家。
- 街談巷語(がいだんこうご):市井の噂話。無益で軽薄な話題。
- 樵歌牧詠(しょうかぼくえい):きこりや牧童の自然に親しむ素朴な歌。
- 失徳過挙(しっとくかきょ):今の人々の道徳の欠如や過ち。
- 嘉言懿行(かげんいこう):過去の偉人の美しい言葉や行い。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
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(語るに値する話を)honor-the-wise
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(新しい噂より古き佳言)
この条は、情報にあふれた現代にこそ大切にしたい、静かで確かな価値観を示してくれています。
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