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才能だけに頼り、仁義を欠けば身を滅ぼす

孟子は、斉に仕官した盆成括(ぼんせい・かつ)について「彼は殺されるだろう」と厳しい予言を口にした。
そして、予言は現実となり、盆成括は実際に殺された。

門人が「どうしてそれを予測できたのですか」と尋ねると、孟子はこう答える:

「彼は少しばかりの才はあったが、君子の大道――すなわち“仁義”を学び、身につけていなかった。
だからこそ、その小さな才を頼みに無理をし、身を滅ぼすことになるのだ」

ここで孟子が教えているのは、「才」だけでは人を導くことはできず、「徳」がなければ才はむしろ危険なものになる」という教訓である。
わずかばかりの能力がある者ほど、自分の未熟さに気づかずに過信し、礼を失い、他人と摩擦を起こして破滅を招く
という。

とくに政治や人の上に立つ場においては、仁義の基盤がない才能は剣のようなものであり、他人だけでなく自分も傷つけることになる。
孟子が「大道(たいどう)」と呼ぶ、人格と道徳に根ざした生き方の習得こそ、長く生き残る人間の条件なのだ。


引用(ふりがな付き)

「盆成括(ぼんせい・かつ)、斉(せい)に仕(つか)う。孟子(もうし)曰(いわ)く、死(し)なん、盆成括は。
盆成括、殺(ころ)さる。門人(もんじん)問(と)うて曰(いわ)く、夫子(ふうし)は何(なに)を以(もっ)て其(そ)の将(まさ)に殺されんとするを知るか。
曰(いわ)く、其の人と為(な)りや、少(すこ)しく才(さい)有(あ)り。未(いま)だ君子(くんし)の大道(たいどう)を聞(き)かざるなり。則(すなわ)ち以(もっ)て其の軀(からだ)を殺(ころ)すに足(た)るのみ」


注釈

  • 盆成括(ぼんせい・かつ)…孟子に一時学んだとされる人物。修養半ばで仕官した。
  • 君子の大道…仁義を基盤とした、人格者としての根本的な道。人徳と倫理。
  • 少しく才あり…ちょっとした器用さや能力はある、の意。十分な人格の裏打ちがない。
  • 足以殺其軀(そくいさつきく)…自身の身を滅ぼすに十分である、という警告。
目次

1. 原文

盆成括仕於齊。孟子曰、死矣、盆成括。
盆成括見殺。門人問曰、夫子何以知其將見殺。
曰、其爲人也、小有才、未聞君子之大道也、則足以殺其軀而已矣。


2. 書き下し文

盆成括(ぼんせいかつ)、斉(せい)に仕(つか)う。孟子(もうし)曰(いわ)く、死なん、盆成括は。
盆成括、殺(ころ)さる。門人(もんじん)問(と)うて曰く、夫子(ふうし)は何を以(もっ)て其(そ)の将(まさ)に殺されんとするを知(し)るか。
曰く、其の人と為(な)りや、少(すこ)しく才(さい)有(あ)り。未(いま)だ君子(くんし)の大道(たいどう)を聞(き)かざるなり。則(すなわ)ち以(もっ)て其の軀(み)を殺(ころ)すに足(た)るのみ。


3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)

  • 盆成括仕於斉、孟子曰、死矣、盆成括
     → 盆成括が斉に仕官した時、孟子は「盆成括はきっと殺される」と言った。
  • 盆成括見殺
     → 果たして、盆成括は殺されてしまった。
  • 門人問曰、夫子何以知其將見殺
     → 弟子たちは問うた。「先生はなぜ、彼が殺されると分かったのですか?」
  • 曰、其爲人也、小有才、未聞君子之大道也
     → 孟子は答えた。「彼の人柄による。少しばかりの才はあるが、君子の大道を聞いていなかった。」
  • 則足以殺其軀而已矣
     → 「だからこそ、自らの身を滅ぼすには十分だったのだ。」

4. 用語解説

  • 盆成括(ぼんせいかつ):実在した人物。弁舌に優れたが、孟子からは“才あれど徳なし”の典型とされた。
  • 君子の大道(くんしのたいどう):高い徳と正義、仁義礼智の道。単なる知識やスキルではなく、人格を伴う理想の道。
  • 軀(み)を殺す:命を落とす、自滅するという意味。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

盆成括が斉の国に仕官したとき、孟子は「彼はきっと殺されるだろう」と予言した。
そして、実際に盆成括は殺されてしまった。
弟子たちが「なぜそれが分かったのですか」と尋ねると、孟子はこう答えた:

「彼は少しばかり才覚はあったが、君子としての根本的な道(徳や倫理)を知らなかった。
だからこそ、その才によって身を滅ぼしたのだ。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「才覚(スキル)だけでは身を守れない」**という孟子の倫理思想の核心を示しています。

  • 「少しの才」は一見有利に見えるが、徳が伴わなければ災いを招く。
  • 君子の「大道」を知らずに仕官すれば、才によって周囲と軋轢を生み、自滅する。
  • つまり孟子は、才よりも徳・志・哲学のある生き方をこそ重視していたのです。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

「スキルだけの人材は危うい」

  • プレゼン力、交渉力、即戦力──これらは重要だが、それだけでは危険もはらむ
  • 組織の目的・価値観と一致していなければ、周囲との摩擦や信頼喪失を招く。

「徳なき才は、自らを滅ぼす」

  • 「頭の良さ」だけで組織を動かそうとする人は、短期的には成果を出しても、長期的には孤立しやすい
  • 「君子の大道」、すなわち信頼・共感・誠実さをもとにした行動原理が、持続可能な成功を生む。

「人を見るときは、“才”ではなく“道を聞いたか”」

  • 採用・評価・登用において、スキルや実績に目がいきがち。
  • だが、「その人が何を信じているか」「正しさをどう判断するか」を確認しないと、誤った判断を下すリスクがある。

8. ビジネス用の心得タイトル

「才は身を助けず──“徳なき力”は身を滅ぼす」


この章句は、人を動かす力(才)が、人を守る徳(道)と一体でなければならないという孟子の哲理を鮮やかに示しています。


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