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制度は設計だけでなく、実践で完成する

制度を潤すのは、為政者の熱意と工夫

孟子は、仁政を実現するための井田法の「大略」を語り、その実行が文公とその臣下の努力にかかっていると説いた。

土地の配分と役割の明確化

  • 卿(大臣)以下の役人には、祭祀の費用を賄うための圭田(けいでん)50畝
  • 農家の子弟(16歳以上未婚男子)には、25畝の農地

このように身分や立場に応じて公平に土地を配分し、生活基盤を整えることで、死者の葬送や移転の際にも郷里を離れることなく、地域の安定が保たれる。

地域共同体の形成と社会的連帯

  • 一井(900畝)は八家で構成し、その中央の100畝を公田とする
  • 残り800畝を各家に分け、それぞれが私田とする
  • まずは公田を皆で耕し、その後に自分の私田を耕す

この仕組みによって、公共優先の精神と、民と官の役割分担が明確になる。
さらに、同井の住人たちは――

  • 出入りは連れ立って行い
  • 盗賊からは互いに守り合い
  • 病気のときには扶助し合う

こうした日常的な助け合いにより、百姓たちは自然と親睦し、地域社会に安心と連帯が生まれる


「此れ其の大略なり。若し夫れ之を潤沢せんは、則ち君と子とに在り」
― 制度の骨組みは示した。だが、それを生きた制度にできるかは、君とおまえの手にかかっている。

孟子はこのように語り、理念だけで満足せず、実地の中で工夫と誠意をもって制度を育てよと励ます。


引用(ふりがな付き)

公事(こうじ)畢(お)わりて、然(しか)る後(のち)敢(あ)えて私事(しじ)を治(おさ)む。野人(やじん)を別(わか)つ所以(ゆえん)なり。

此(こ)れ其(そ)の大略(たいりゃく)なり。若(も)し夫(そ)れ之(これ)を潤沢(じゅんたく)せんは、則(すなわ)ち君(きみ)と子(し)とに在(あ)り。


簡単な注釈

  • 圭田:役人が祭祀費用などに充てるために与えられる特別田地。
  • 親睦:古くから使われている「人と人の深い結びつき」。現代の懇親会よりも強い意味合いを持つ。
  • 潤沢する:制度に息を吹き込み、豊かに機能させること。形式にとどまらず、真に活かす努力を意味する。
  • 私事を後にする:公務を優先し、私事はその後にするという公共意識の原点。

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この章は、制度設計が単なる理念や設計図ではなく、人の手で動かされ、感情や協力を伴って初めて完成されることを孟子が説いたものです。民の暮らしの中に仁政を息づかせるという強い思いが伝わってきます。

1. 原文

卿以下必有圭田。圭田五十畝,餘夫二十五畝。
死徙無出鄉,鄉田同井,出入相友,守望相助,疾病相扶持,則百姓親睦。
方里而井,井九百畝,其中為公田,八家皆私百畝,同養公田。
公事畢,然後敢治私事,此以別野人也。此其大略也。
若夫潤澤之,則在君與子矣。


2. 書き下し文

卿以下は必ず圭田(けいでん)有り。圭田は五十畝。余夫(よふ)は二十五畝。
死徙(しし)、郷を出づること無く、郷田、井を同じくし、出入相友とし、守望相助け、疾病相扶持せば、即ち百姓、親睦せん。

方里にして井す。井は九百畝。その中は公田たり。八家、皆百畝を私し、同じく公田を養う。
公事、畢(お)わりて、然る後、敢(あ)えて私事を治む。これ野人を別つ所以なり。

これ、その大略なり。もし夫れ、これを潤沢せんは、則ち君と子とに在り。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「卿以下必有圭田。圭田五十畝,餘夫二十五畝」
     → 卿(高官)以下の者には必ず圭田(給田)が与えられる。高官には50畝、一般農夫には25畝。
  • 「死徙無出鄉,鄉田同井,出入相友,守望相助,疾病相扶持,則百姓親睦」
     → 死ぬまでは郷(地域)を出ず、田は共有され、出入りでは互いに助け合い、見張り合い、病気のときも支え合えば、民衆は自然と親睦する。
  • 「方里而井,井九百畝,其中為公田,八家皆私百畝,同養公田」
     → 一辺一里の正方形の土地を「井」とし、合計900畝。その中心は公田とし、周囲の8家族がそれぞれ私田100畝を持ち、公田を共同で耕す。
  • 「公事畢,然後敢治私事」
     → 公の仕事が終わって初めて、自分の田を耕してよいとされていた。
  • 「此以別野人也」
     → この制度は“野人”(非制度的な生活者)と“制度の中の民”を区別するためである。
  • 「此其大略也。若夫潤澤之,則在君與子矣」
     → 以上が大まかな制度の仕組みである。さらにこれを豊かに潤すかどうかは、君主とその補佐(あなた)にかかっている。

4. 用語解説

  • :高級官僚・諸侯に次ぐ地位。
  • 圭田(けいでん):封建領主や役人に割り当てられる土地。
  • 余夫(よふ):一般農夫のこと。
  • 死徙無出郷:死ぬまで自分の郷を離れることなく暮らすこと。
  • 井田(せいでん):九分割された土地制度で、中央の一つが公田、周囲八つが私田。
  • 守望相助:互いの家や農地を見張り合い、防犯や防災を支援すること。
  • 潤沢(じゅんたく):制度や政策を実際に“豊かに運用”して成果を出すこと。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

高官以下の役人たちは、それぞれ一定の田を割り当てられ、高官は50畝、一般の農民は25畝を耕す。
人々は故郷を離れず、同じ郷の土地を共同で井田として用い、出入りでは助け合い、警戒や病気でも支え合う。
こうした相互扶助の仕組みによって、民衆の間には自然と親しみが生まれる。

一つの「井」(一辺一里の土地)は900畝で、その中心は公田として、8家族がそれぞれ100畝の私田を持ち、交代で公田を耕す。
まず公の田を耕し、その後に自分の田を耕す。この制度によって、公と私、制度内と制度外の区別が明確になる。

これが井田制の大まかな仕組みである。
だが、この制度を真に豊かに機能させるかどうかは、為政者である君主とその補佐役(あなた)にかかっている。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、制度設計+コミュニティ形成+リーダーシップの三位一体モデルを描いています。

  • 単なる制度設計ではなく、“人の関係”を築く仕組みであること
     田の配分、労働の順序だけでなく、「相互扶助」「地域に根ざした暮らし」を重視している。
  • “潤沢”という言葉の強調が意味するもの
     制度を“整える”ことと、“活かす”ことは別。ルールの活用と人の信頼関係がなければ制度は機能しない。
  • トップとその右腕が“文化を運用する主体”であることの自覚
     制度の設計は全体像を決めるが、それが潤うかどうかは運用次第。現場の熱意と工夫が問われている。

7. ビジネスにおける解釈と適用

「制度は人をつなぐ“場”でもある」

  • 業務分掌や福利厚生、評価制度は、社員同士が“相互に助け合う”文化を前提に設計すべき。
  • 組織の中で“守望相助”“疾病相扶持”がある会社は、離職率が低く、信頼性が高い。

「ルール運用の巧拙が、“組織の潤い”を決める」

  • 人事制度や評価ルールがあっても、それをどう“潤沢に”運用するかは管理職や担当者にかかっている。
  • ただ“仕組みを整えた”だけでは、文化は変わらない。

「公事と私事の順序は信頼の源」

  • 組織全体への貢献(公事)を優先し、その後に個々の利益(私事)を認める文化が、チームワークを育む。
  • 評価や昇進の基準に“公事への姿勢”を入れると、制度と文化が連動する。

8. ビジネス用心得タイトル

「制度は潤して活きる──仕組みと心の相互運用が組織を育てる」


この章句は、“構造・制度・文化”が三位一体となった理想のガバナンス像を描いています。

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