主旨の要約
孔子は、訴訟のような争いごとを「一言で決着をつけ、当事者を納得させられる人物」として、弟子の子路を挙げた。子路の誠実で迅速な態度、そして約束を決して先延ばしにしない実行力は、公平な判断に必要な徳である。
解説
この章句は、訴訟や判断において求められる「決断力」と「誠実さ」を讃えるものです。
孔子はこう述べます:
「一言で訴訟を裁いて納得させられるのは、子路(由)くらいのものだろう」
この「片言(へんげん)で折獄(せつごく)する」とは、
言葉少なくして要点を突き、当事者双方を納得させる裁きの力を意味します。
子路は、口数こそ少なかったものの、決断が早く、勇気と誠意を持って事に当たる人物でした。
彼は「宿諾(しゅくたく)なし」――すなわち、約束をしてから実行までに時間をかけたり、ぐずぐずと迷ったりしない人だったと孔子は語ります。
これは、現代の司法や経営、あらゆる意思決定の場にも通じます。
遅延や曖昧さは、不信や混乱を招きやすい。
一方で、誠実さに裏打ちされた迅速な判断は、人々を納得させ、場を収める力を持つのです。
引用(ふりがな付き)
子(し)曰(いわ)く、片言(へんげん)、以(もっ)て獄(うった)えを折(さだ)むべき者(もの)は、其(そ)れ由(ゆう)なるか。
子路(しろ)は宿諾(しゅくたく)無(な)かりき。
注釈
- 片言(へんげん)…わずかな言葉。一言で要点を突き、説得力ある表現。
- 折獄(せつごく)…訴訟を裁き、判決を下すこと。ここでは争いを収める力を象徴。
- 子路(しろ)/由(ゆう)…孔子の弟子。実直・勇敢・迅速な行動力が特徴。学問ではやや粗雑ながら、孔子から非常に信頼された人物。
- 宿諾(しゅくたく)無かりき…いったん承諾したことを後回しにしたり、迷ったりしない。決めたことはすぐ実行する性格。
1. 原文
子曰、片言可以折獄者、其由也與。子路無宿諾。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、片言(へんげん)、以(もっ)て獄(うったえ)を折(さだ)むべき者は、其(そ)れ由(ゆう=子路)なるか。
子路(しろ)は宿諾(しゅくやく)無(な)かりき。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「片言、以て獄を折むべき者は、其れ由なるか」
→ たった一言で訴訟を裁くことができるような人物といえば、それは由(子路)だろうか。 - 「子路は宿諾無かりき」
→ 子路は、約束を翌日に持ち越すようなことはなかった。つまり、約束したら必ずすぐに果たす人だった。
4. 用語解説
- 片言(へんげん):一言、わずかな言葉。簡潔な一言で本質を突く言葉。
- 折獄(せつごく):裁判を断定すること、訴訟を公平に裁くこと。
- 其由也與(それゆうなるか):あれはまさに子路ではないか?という確認のような語調。「由(子路)ではなかろうか」
- 宿諾(しゅくやく):一晩寝かせた約束、すぐに実行しない約束。
- 子路(しろ/由):孔子の弟子。本名は仲由。勇気・実行力に優れ、行動派として知られる。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「わずか一言で訴訟を見抜き、裁けるような人物といえば、それは子路ではないだろうか。
彼は一度した約束は、決して翌日に持ち越すことのない、実行力のある人だった。」
6. 解釈と現代的意義
この章句では、“判断力”と“信頼性”を備えた理想の人物像が語られています。
- 「片言で折獄」= 簡潔で的確な判断力の象徴
→ 余計な言葉や迷いがなく、核心を突いた言葉・判断ができる人間の姿。 - 「宿諾無かりき」= 約束を持ち越さず、即座に果たす信頼の人
→ “約束を守る”というレベルではなく、“先送りしない実行”こそが真の信義。 - “言葉”と“行動”の一致が人の信頼を築く
→ 多弁よりも、的確な一言。理屈よりも、速やかな実行。
7. ビジネスにおける解釈と適用
(1)「判断の核心を突く一言を持て」
- 会議や報告での冗長な説明よりも、「的を射た一言」が決断と方向性を示す。
→ 本質を一言で語れる人は、信頼とリーダーシップを得る。
(2)「“すぐやる人”が周囲の信用を得る」
- 口約束や「あとでやります」ではなく、その場で動く姿勢が、仕事の信頼残高を増やす。
→ 「宿諾無かりき」は、**“即応の文化”**にもつながる。
(3)「言動一致がリーダーの条件」
- 判断(折獄)に優れ、かつ実行(無宿諾)にも優れる──この二つが揃ってこそ、本物のリーダー。
→ “語って終わらず、即行動する”ことが現代にも通じる徳。
8. ビジネス用の心得タイトル
「語るより動け──“即断即行”が信をつくる」
この章句は、判断力・信頼・誠実・実行力といった現代のビジネスでも非常に重要な資質を、
簡潔な言葉で示したものです。孔子の言う“子路”のような人物は、現代でもチームの中核を担うリーダー像として理想的です。
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