孔子は、最愛の弟子・顔回(がんかい)の徳を称えるなかで、次のように語った。
「顔回は、何ヵ月ものあいだ、心が仁(じん)から外れることがなかった。
だが、他の者たちはというと、仁の心を保てるのはせいぜい一日、あるいは一月といったところである」
ここでいう「仁」とは、思いやり、誠実さ、人としての優しさをもって他者と接する心の在り方。
それを一貫して保つのは、口で言うほど容易ではない。人はつい苛立ち、慢心し、損得に目を曇らせてしまう。だからこそ、仁を絶やさず保ち続ける者は、まことに稀であり、尊いのだ。
孔子は、顔回を理想の体現者としつつ、弟子たちに対しても、自分の心の持ちようを日々顧みるよう促している。
「一時の優しさ」ではなく、「継続する優しさ」こそが、真の仁の証である。
ふりがな付き原文
子(し)曰(いわ)く、回(かい)や其(そ)の心(こころ)、三月(さんげつ)仁(じん)に違(たが)わず。
其(そ)の余(よ)は則(すなわ)ち日月(じつげつ)に至(いた)るのみ。
注釈
- 回(かい):顔回(がんかい)のこと。孔子が最も高く評価した高弟。
- 仁(じん):孔子の思想の核心。思いやり・誠実さ・人間愛などを総合する徳目。
- 三月(さんげつ):三か月。長期間、という強調表現。
- 日月(じつげつ):一日、あるいは一月程度。短期間を表し、「一時的」という意味合いで用いられている。
- 其の余(そのよ):その他の弟子、つまり顔回以外の者。
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